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2018.07.22
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​​40数年前、初めて勤めた会社は、東京・飯田橋駅近くにあった。小さな会社で給料は、やっと食べていけるだけ。月末になると財布の中は空っぽの状態であった。駅近くの交差点を渡って路地に入ると、ちょっと変わった酒場があった。会社の先輩に連れられて、その酒場に行った。昭和レトロなんてものでなく、戦前に戻ったかと思われる風情である。しもた屋風の平屋で玄関のところに「手相酒場」と書かれた赤ちょうちんがぶら下がっている。入ると土間の横が畳敷きになっており、客はそこで飲み食いする。飲み食いといっても、出てくるのは日本酒と豆腐だけである。他の物を注文すると「帰ってください」と追い出される。
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​酒1合と冬は湯豆腐、夏は冷奴がついて、当時のお金で100円であった。歌舞伎座の立ち見が学割で50円、近くの名画座の入場料が100円で、金のない安月給人にとって100円という金額は相当な出費である。

その上、この手相酒場は酒3杯飲むと手相を無料で見てくれるというプレミアムが付いていた。この手相が妙に当たるという評判もあった。酒場のご主人は60代から70代のおばあちゃん。和服を着て、一人で店を切り回していた。髪は肩切りのおかっぱで片眼が曲がっていたので失明していたのかもしれない。しかし、そんなことは面と向かって聞けないオーラがあった。なにしろ本業は占い師という背景は恐れ多い。
​​店は夕方6時開店。夜10時には店を閉めてしまう。客は付近の大学生、安サラリーマン、出版社の多い所なので編集者。大学は法政、理科大、早稲田、医大、神田周辺の学生だ。つまみを含めて200円で間に合ってしまう酒場はめったにない。六大学野球が終わると「手相酒場」は、第2ラウンド、延長戦の場になる。当時、法政には江川、田淵という強力な選手がいた。早稲田にとって当面の敵は慶応ではなく、法政だった。野球のある時は、野球終了に合わせて店を開けた。おばちゃんの管理は絶対だ。喧嘩はご法度である。校歌放吟は許された。他の客にとっては迷惑のことであったが、ここの土地柄であるので、どうしようもない。早稲田は「都の西北…」とやる。法政は、あれ、校歌なんてあったっけ? バリケードの中で「大学解体」を論じてた奴が校歌なんて歌うのか。しらけてしまうので、早稲田の替え歌を作ってやり返す。「都の真ん中、我らが母校…、ホーセイ、ホーセイ」とだみ声で張り上げる。
​​
​畳敷きの奥の窓を隠すように、読めない達筆の書が屏風に置かれていた。この屏風があることで文学的ムードが醸し出され、狭い貧相な部屋が異空間であるように演出された。四文字書かれているのはわかるが、絵のようで文字には見えない。筆の勢いは雄大で生きて迫ってくるようだ。おばちゃんに聞いてみた。「漱石の「則天去私」ですよ。私の祖父が、ある書家に書いてもらったもので、譲ってもらいました。天に則り、私を去る、ということでしょう。漱石の小説家として行きついた理想らしいのです。文学者らしからぬ言葉ですね。禅のお坊さんのようです。」おばちゃんの言葉はどのくらい正しいのかわからないが、文学というのは「私」を表現するものであるとすると、去私というのは道理に合わない。「則天虚私」なら、いくぶんわかるが。
さて、おばちゃんの手相であるが、将来を見通すというより、人生相談のようだ。当たるも八卦当たらぬも八卦という言葉があるが、そもそも人生の将来など、だれもわからない。おばちゃんの場合、酒3合と条件が付いている所が巧妙だ。3合飲む間に、人はいろいろ話す。1時間くらいかかるだろう。おばちゃんは、この間じっと話を聞いていて、職業や考え方、趣味まで読み取ってしまう。手相は方便で、その人に合わせて話題を選んで語るので、本人はまさに自分のことと思ってしまう。「当たっている」と思ってしまう。そして、その人の希望に合わせて、ちょっと先の実現しそうなことを話す。

結婚したがっている人には「1か月先に出会う人が、まさにその人です」と言えば、喜んでしまう。ところが酒を3合も飲んでいるので、意識朦朧の状態である。人生の大事なアドバイスをもらったとしても、翌日になれば、ケロッと忘れてしまう。また行くと、おばちゃんも兵(つわもの)で、「手相無料は、3回はお休みです。4回目にまたやりましょう。」と軽くいなされてしまう。

この味のある酒場も数年前に消えてしまった。飯田橋周辺の開発は大規模で、街の様相の変化は激しい。

未来告ぐ手相酒場や暁(あけ)の星

法政大学OBの方へ:失礼な言動お許しください。校歌は大学のホームページやユーチューブで聞くことができます。作詞、作曲はだれか、どんな意味かも確認するとおもしろいかも(古典語が使われていることもある。歴史ある大学の場合、歌詞はじっくり読むこと)。「法政大学校歌」で検索。他大学の校歌も、同じ方法で検索してみてください。





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最終更新日  2018.07.22 13:32:53
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※コメントに関するよくある質問は、こちらをご確認ください。


Re:日暮れて「手相酒場」へ(07/22)   尺取り虫 さん
都の西北から来ました(笑)
校歌は文学者相馬御風が創っています。
創立記念日の集まりでは、
御風が住んでいた新潟、糸魚川で大火
の翌年でありましたが、御風さんの着ぐるみが
糸魚川の復興PRをして回っていました。 (2018.08.22 19:08:58)

Re[1]:日暮れて「手相酒場」へ(07/22)   masa2948 さん
尺取り虫さんへ
早稲田、神楽坂、飯田橋にはいい酒屋がいっぱいあります。 (2018.08.26 14:39:24)

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