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中高年の生涯学習

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2021.04.04
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「兵法の道、二天一流と号し、数年鍛錬の事、初而(はじめて)書物(かきもの)に顕(あら)はさんと思ひ、時に寛永二十年十月(かんなづき)上旬の頃、九州肥後の地岩戸山に登り、天を拝し、観音を礼(らい)し、仏前にむかひ、生国播磨の武士新免武蔵守(むさしのかみ)藤原の玄信、年つもって六十」
 
「五輪書」地の巻の冒頭である。武蔵の名のり、自己紹介である。二天一流とは武蔵の兵法の流儀の名前、岩戸山は熊本の金峰山、ここの洞窟にこもって「五輪書」を書き始めた。「五輪書」といってもオリンピックとは関係ない。「五輪」とは、地・水・火・風・空という仏教の概念で、各節の章題に武蔵は使っている。​
 
​「宮本武蔵」といえば、吉川英治の小説が有名である。恋あり、戦いありの血沸き肉躍る、人生訓を含んだ教養小説で、これを元に映画、演劇、歌舞伎、テレビドラマが作られ、誰でも一度は触れているはずである。「五輪書」は武蔵晩年の書で、兵法、武道の理論が書かれている。武道やスポーツを行っている人には必読の本だが、単に刀の使い方を扱っているわけではない。他の芸道に人にも参考になることが書かれている。​
 
​​「五輪書」は岩波文庫、角川ソフィア文庫、講談社学術文庫に入っている。角川はビギナーズシリーズに入っており、分かりやすさでは一番である。著者は魚住孝至(たかし)先生で、国際武道大学教授である。ここでは魚住著の岩波新書「宮本武蔵ー「兵法の道」を生きる」も参考にする。ただし魚住版「角川」は、分かりやすさ重視のためか、途中、省略が随分ある。現代語訳が入っているので助かる。岩波文庫は語釈のみである。武蔵の精神と一体化したい方は、岩波文庫を声を出して読むと自分が武蔵になった気分が味わえる。​​
 
​岩波新書の魚住「武蔵」は「巌流島決戦」から始まる。吉川「武蔵」は巌流島をクライマックスにして終了している。吉川の小説は江戸後期の伝記「二天記」を元にしている。「二天記」は熊本藩の筆頭家老豊田景英(かげひで)が著わした。ただし、これは武蔵が没した120年後のものであり、創作が大分入っているようである。「二天記」の記述によると、武蔵が小次郎との勝負を望んだので、藩主の許可を得て小倉・長門から一里の小島で勝負を行うことになった。ところが武蔵は試合の前日に下関へ出奔、その地の船問屋に泊まり、翌朝遅くまで寝ていた。催促の使いが来て、起きだし、朝食を摂った。船の櫂(かい)を持って来させて、長い木刀を作った。約束の刻限に大きく遅れて舟で出かけた。島で焦れて待っていた小次郎は、武蔵の舟を見るや、波打ち際で討とうとして、小走りに出て鞘(さや)を払って捨てた。それを見た武蔵はすかさず「小次郎、破れたり」と言い放った。その言に激昂した小次郎は長刀で打ち込んだが、飛び上がった武蔵が打ち下ろした木刀に頭を割られて倒れた。小次郎は倒れながら刀を横にはらって武蔵の袷を三寸ばかり切ったが、わき腹を木刀で討たれて気絶した。​
 
実際はどうだったか。武蔵の養子の伊織が承応3年(1654)に小倉の手向山(たむけやま)に建立した「武蔵顕影碑」の文章がある。これは漢文で書かれている。勝負が行われたのは長門と豊浦の際の舟島、この島は後に「巌流島」と呼ばれる。小倉藩が関与した公式の勝負ではなく、武蔵と小次郎との私闘であった。碑文は「ここに兵法の達人岩流(小次郎)と名づくる者あり。両雄同時に相会し、岩流三尺の白刃を手にし来たり、命を顧みずして術を尽くす。武蔵、木刀の一撃を以て之を殺す。電光尚ほ、遅きがごとし」
 
碑文は勝負が行われた小倉の地に当時を知る人が多くいた時期に立てられたもので虚偽のことが書かれる状況にないので、これが事実のあらましだったと魚住教授は推測する。
 
ここから魚住教授の「宮本武蔵の誕生」という本論が始まる。本ブログではここは省略して、武蔵剣術の術理にせまって見る。
 
​​「兵法三十五か条」は「五輪書」の前に書かれた。岩波文庫には、「五輪書」の後に、付録のように入っている。寛永十八年、武蔵は「兵法三十五か条」を熊本藩主細川忠利に提出した。武蔵の剣術の術理をまとめたものである。「五輪書」に書かれてないこともある。現代人からすれば、非常に読みずらいものだが、ここも声をだして読んでみよう。意味のわからないところは、そのままにしよう。第一条は「二刀流」の意味が書いてある。実践では片手の一振りであるので、訓練のため二刀を使うということらしい。第二条は「大分(たいぶん)の兵法」と「一身の兵法」の違いである。「大分の兵法」とは大将の兵法ということで、戦争での総司令官の立場ということだろう。これを意識し始めたというところで、具体策には言及していない。以下は「構え方」が書かれている。これは「五輪書」にも書かれている。「枕のおさえ」という技が書かれている。敵が技を出す前に技を見抜いて、その技の頭を抑えて、技を出させないという方法である。「心持」は武蔵の剣術心理学である。心を二層に分けて、「意のこころかろく、心のこころおもく」と言っている。​​
​魚住教授は、これを「敵の攻めに柔軟に対処できるように、意識は軽く動けるようにしながら、芯の心は動じないようにすることを言ったもの」と解釈されている。そして「非常に高度な心得」と言っている。「戦い方」で、敵の狙いが読めない時は「空打ち(からうち)」を使えと言っている。「空打ち」とは、現代語でいえば、フェイントである。オレオレ詐欺のような怪しい電話がかかった時、、相手の話に乗りながら、様子を窺い、情報を集めつつ、警察へ通報するときに使える手である。​
 
最後のところで「有講無講(うこうむこう)、「万理一空」という言葉が出てくるが、武蔵が考えた剣術、あるいは人生に対する哲理なのだろうが、よくわからない。「空」は「五輪書」の最終章のタイトルになっっている。仏教哲学の「色即是空」の「空」とは違うようだ。「五輪書」では「ある所をしりて、なき所を知る。これすなわち空なり」と言っている。これでは何のことかわからない。もう少しバックグラウンドの情報が必要である。
 
​「五輪書」の核心は次の項目ではないかと思う。魚住「武蔵」は、ここは省略されている。ここでは学術文庫の鎌田茂雄訳を参照する。​
 
物毎(ものごと)に付け、拍子(ひょうし)は有る物なれども、とりわき兵法の拍子、鍛錬なくては及び難き所也。世の中の拍子あらわれてある事、乱舞の道、れい人管弦の拍子など、是皆よくあふ所のろくなる拍子也。武芸の道にわたって、弓を射、鉄砲を放ち、馬に乗る事迄も、拍子・調子はあり、諸芸、諸能に至りても、拍子をそむく事は有るべからず。
 
講談社学術文庫版の鎌田茂雄訳は次のようである。
 
​「どんな物事についても、拍子があるものであるが、とくに兵法では拍子の鍛錬なしには達しえないものである。世の中の拍子があらわれているのは、能の舞や楽人の音楽などである。これは拍子がよく合うことによって、正しい拍子になる。武芸の道にわたって、弓を射、鉄砲を撃ち、馬に乗ることまでも、拍子・調子というものがある。いろいろな武芸や芸能でも拍子を乱すことがあってはならない。」​
 
​​​この項目で注目すべきは「拍子」である。訳文でも「拍子」になっているが、「拍子」を「間合いを合わせる」あるいは「」ととらえるとすべての芸能に通じてくる。音楽家なら「リズム」、さらに突っ込んで考えると「呼吸」であろう。呼吸は吸気で酸素を取り入れ、呼気で二酸化酸素を吐き出すことである。普段何気なく行っている呼吸であるが、広辞苑には「1,物事を行う微妙なこつ。調子。要領。2,動作を共にする人と人との間の調子」と出ている。兵法や舞踊、その他の技芸マスターには、その芸特有の「呼吸」があり、その呼吸を身につけることなのだ、と武蔵は「拍子」という言葉で看破しているのである。​​​
 
では、その呼吸をどのように発見し、身につけるか。ここからはご自分の追究している事の問題になる。「五輪書」には、そのヒントになることが、異様な熱をもって書かれている。武蔵の場合は、剣術であるが、あなたの問題はなんだろう。「鍛錬」「工夫」という言葉が何回も出てくることに気付くだろうか。
 
​「五輪書」は武蔵の死の一週間前に弟子の寺尾孫之丞に手渡された。孫之丞は耳に障がいがあったようだ。命がけで書いた文書を障がいを持つ弟子に託した。ここに武蔵の人間を見る眼を感じる。表面的な姿・形ではなく、人格を見ていた。孫之丞はその障がいのため藩には出仕できず、浪人だったようだ。孫之丞については、これくらいしかわからない。少なくとも武蔵は孫之丞を一番弟子と見ていた。藩の方針とは相いれない。「五輪書」は以後、次々手渡されたが、真筆は消えてしまった。しかし多くの人が書き写して文章は残った。​
 
さらに武蔵と戦いたい方は、次の参考文献と武蔵の書・画を展示する美術館があります。

魚住孝至「宮本武蔵ー日本人の道」(ぺりかん社)
魚住孝至「定本五輪書」(新人物往来社)
 
永青文庫(東京都めじろ台)正面達磨図、布袋図、蘆雁図
和泉市久保惣記念美術館(大阪府和泉市)枯木鳴鵙図
岡山県立美術館(岡山市)周茂叔図、布袋図
熊本県立美術館(熊本市)「独行道」「五方之太刀道」の原本
八代市立博物館(熊本県八代市)武蔵自作の木刀
(注:常時展示されているわけではない。確認のうえ見学してください)
 
​​次回更新は4月25日の予定。





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最終更新日  2021.04.05 09:55:16
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