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スタ~ト
誰もいない改札を抜けると懐かしい香りがした。新幹線はもちろんとまらないここが俺の故郷。帰ってくるのは五年ぶりだ 駅の前には泥だらけの道具を乗せた軽トラが待ちかまえていた 「よぉ~久しぶりやなスー」 この泥だらけのムサイのがタクちゃん。そしてスーってのが俺のあだ名 なんでスーかはまたそのうち 久しぶりに呼ばれるとどこかくすぐったい 「久しぶりぢゃね。タクちゃんもしっかり働くおじさんやね」 タクちゃんは相変わらずのでかい声で笑いながら車に乗り込んだ 「俺も見ての通りのドカタぢゃが。汗かいてビール飲んで最高やで。スーはあっちでなんしょうたんや?」 軽トラには不釣り合いな音楽の音量を下げながらタクちゃんが話の続きをはじめた。 「俺は普通の会社員よ。サラリーマン言うやつよ」 窓を開けると懐かしい風が吹き込んでくる サラリーマンというのは嘘であっちでは探偵事務所を開いていた。ほとんど何でも屋みたいなものであっちの町ではあちこちにあった 俺の事務所はたまたまこの変な体のおかげで繁盛していた 俺はガキのころから人の気持ちがわかる。普通の時は色とか匂いのような感覚的なものだけど強い感情は形もわかるときがある。超能力ってやつやね タクちゃんはとても居心地いい香りを昔からだしてる。ここの人たちはたいがいそうだ 俺が帰ってきた理由は東京の人の匂いがつらすぎたらもあるがホントの理由は… 「着いたでぇスー」 ここが俺の実家 看板にはsmileの文字 殺人的にダサい 実家は居酒屋をやっていてその店番のために帰ってきたのだ このsmileのオーナー兼俺の親父はというと、死んだわけでも出かけてるわけでもなく smileシンガポール支店を開くとか言うわけのわからないことを言っておかんと移住した だから俺はこのsmileの長期店番を任されたのだ 「懐かしいやろう。今じゃ俺も常連やが」 タクちゃんと店にはいると二人でビールを飲みはじめた 俺がこの話を引き受けたのは(引き受けた覚えはないけど)いつかは俺も居酒屋をしようと思っていたからだ あっちでも居酒屋だけは嘘つきの匂いは薄くて心地よかった。酒に酔った人はいい匂いがする 「ここは最高やで。料理はうまいし酒もうまいし。スーもがんばりや」 たしかにおかんの料理はうまい おとんがサラリーマン時代に世界中で調べた酒も確かにうまい 俺も息子ぢゃなきゃ間違いなくタクちゃんと常連だ。だけどsmileってのはゆるせない 俺のスーっていうあだ名もそもそもはそこからだ だからみんなスーとかイルとか呼ぶ だけど俺がその大嫌いな名前をあだ名にするのをゆるしてる理由は本名にある 俺の名前は藤間… 笑顔 うちの親のセンスは天才的にダサい 店の外がにぎやかになった 「集まってきたな。スーが帰ってくるからあいつらも呼んどいたんや」 タクちゃんは店の外にみんなを呼びにいった のれんをくぐって懐かしい顔ぶれが入ってくる 「スゥーさんおひさしぶりぃ~」 「エガちゃん変わったなぁ」 作業服やスーツ、みんなすっかり居酒屋が似合うようになってた 「イル君元気そうやね。イル君が店しだしたら私毎日飲みに来ちゃいそうやぁ」 みんなあの頃と同じいい匂いがする 「みんなグラスもったか!?」 タクちゃんが声をはる かんぱ~い!! これから悪くない生活になりそうだ お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2007.05.31 21:27:24
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