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がらくた小説館

たける

 『僕はいったい何をしたのだろう?』

たけるはずっと自分を責めていた。

自分を捨てた親にもけっして幸せではなかった暮らしにも、たけるは文句ひとつ言わなかった。

そしていつも幸せだった日々を思い出しては涙を流していた。
たけるが風邪を引いた時、大好きだったドライブ、いつも隣には家族の姿があった。

たけるは家族の愛に包まれ、そしてそんな幸せは永遠に続くのだと思っていた。

しかしたけるの幸せは本当に瞬きほどの一刻であって、そのほとんどの時を辛く生き抜いてきたという事実は言うまでもない。たけるの顔や体に無数に残る傷は、大人の私が目を覆うほどだった。

それでもたけるは待っていた。家族がいつか自分を迎えに来てくれるのではないかと目が物語っていた。

この歳で捨てられた子供の気持ちは私には分からない。分からないからこそ、私にはそれが想像以上に辛いことなのだろうと感じていた。

そしてまた諦めるということさえも、まだ理解出来ないたけるには、現実はあまりにも残酷過ぎた。

彼には生きる権利があった。幸せを得る権利もあった。一人で街を徘徊する現実なんてあってはならなかった。そして一人で生きていくにはまだ早過ぎた。

しかし私にはどうすることも出来ない。私はいつも無力だった。そして無力な私の同胞がたけるを傷つけた。

私はただ鬼になってたけるやその仲間達を始末する。それが私の仕事だ。

私がただたけるにしてやれることと言えば、最も残酷な方法で逝かせてあげることぐらいのものだった。

たけるはやがて目を閉じて、静かに横たわっていた。そしてたけるは最後に
「ワォーン」と力強く鳴いた。

私は最後までたけるを見守り、言葉もなく頭を下げた。


たけるの最後の鳴き声は、いまだかつて聞いたことが無いほどに曇りがなくどこまでも透き通っていた。
                 


                了


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