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がらくた小説館

痴漢・2



 俺は無器用な男だと思う。お人好しだと思う。正義感が強すぎるやつだとも人には言われるが、この性格だけは曲げられない。林はそう思っていた。

 今、目の前の若い女性が痴漢にあっていた。車内は満員で、女性の顔はここからでははっきりとは分からないが、多分苦痛の表情をしているに違いなかった。

 周りの数人はそのことに気付いているはずなのに、皆がいちおうに目を背けていた。そして自分がそれを見てみぬ振りが出来ないことも分かっていた。

 そこで林は当然のように、目の前で脅えきって、何も言えない女性に助け舟を出すことにした。

「勇気をだしなさい」
 林は女性の耳元で囁いたが彼女は何も答えない。

「何をやってるんだ。大声で助けを呼びなさい」

「…」

「痴漢男の手をとって、叫んだらいいんだ!!」

「…」
 
 ついにあきらめた林は、女性のスカートの中から、そっと自分の手を抜いた。


 


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