職業としての農業(1)
つくばの研究者。ある農業系食品研究所の農学博士。当時60歳くらい。研究対象は「蕎麦の実・そば粉・そして食べ物としての蕎麦」その博士が、優秀な女性助手とともに開発したのが「誰でもできる簡単10割蕎麦打ち器具」でした。安定した国家公務員研究者から、いきなり独立行政法人所属になり、研究だけではなくて企業としての業際を要求されたから、それまでの研究を活かして開発した器具。5万円で購入させていただき、打ってみた。自分が知る限りのあらゆる蕎麦屋さんの蕎麦よりうまい。腰もあり、新蕎麦の香り芳香、噛み応えも素晴らしい。その簡易器具自体は正式発売されませんでしたが、今や難しい10割蕎麦を自動で打つ機械が相次いで発売されており、それら機械を使った「10割生粉うち店」が全国に展開されつつあります。もちろん、蕎麦粉の水分含有量や産地ごとの性質、部屋の湿度等に対応した加水量、こねる度合い、回数、切り方、茹でる時間等々、永年の研究に裏打ちされた当該博士のノウハウが活かされたこと、言うまでもありません。5万円で買った打ち器具は、1回で200グラムしか打てない、実に簡易な器具(打つ方法はテコの原理・切るのは回転式切断機)でした。でも、手打ち蕎麦に挑戦していた当時の私が、どうしても「小麦等つなぎ」の無い10割蕎麦が打てなかったのにかかわらず、簡単に打てたのには驚嘆しました。(伊達に博士はやっていない)この博士はおそらくその一生の大部分を「蕎麦」に捧げたのだと思います。蕎麦の品種・DNA・性質・そして打ち方・茹で方等々、経験とカンを排除して徹底的に蕎麦の実を科学的に研究し、それを実践のステージにまで昇華させました。世界に名だたる我が国の食物文化の根底に、こういう地道で徹底的に突き詰める研究者魂、日本人のこころ(根気強く諦めない美意識)があったのだと。蕎麦のことを語り出したら、うるさいほど止まらない博士。博士の後継者が健康に育ち、日本の食文化を基礎科学的にリードしていってもらいたい。そう期待して止みません。(地方創成の政治力学から、当該食品研究所等々を、いわゆる「つくばよりもっと田舎」に移転させる動きがあります。なんのために研究学園都市を創成したのか、あらゆる研究機関を集合させ、研究の相乗効果を狙った当時施策を反故にし、科学立国日本を捨ててしまうのでしょうか。一貫しない場当たりのパフォーマンスは、強い日本を目指す安倍政権らしくありませんね。地道な基礎科学(人的連携含む)なくして日本の未来はないというに) たかが蕎麦 されど蕎麦 蕎麦の違いを微妙に嗅ぎ分けることができる「面倒くさい人々」 それが日本 だから日本