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大阪で水彩画一筋

A-Wyeth雑感03 父と子

Andrew-Wyeth雑感03
 丘の上の少年

 N・C・ワイエスは厳格な父親で一切子供に我儘や甘えを
許さなかったそうです。妻は夫に従い父の威厳は家庭の隅々
まで及ぶ典型的なアメリカの田舎の保守的な家庭に属しそう
です。

 父N・C・ワイエスは多くの文化人とも交流があり、家庭は
様々なお客が出入りするサロンみたいだったそうです。そして
絵画以外にも文学に演劇に音楽に興味を持つ知識人でもありま
した。

 子供たちは優秀だったようで3人の姉は後に画家となり、兄は
後年米デュポン社に入り後世に残る発明をしたほどの科学者に
なっています。

 最初の試練がアンドリューにやってきます。わずか2週間
ほど公立学校に行ったあと、まったく登校しなくなりました。
 肺に病気があったのですが、のちにこのような重要な文章を残
しています。

 「私は人生の大半を一人で過ごしました。それは嫌いではない。
兄弟は皆学校に行きました。がいつも私は一人残されました。
私は家庭の周辺で育ちました。友達は黒人の少年が少しいました。
だけどほとんどの時間を一人で丘の上をさまようことにつかった。
この小さなテリトリーでものを見て育ちましたが芸術にはまだ
考えが及びません。一人ぼっちで生きること、孤独地獄、いいえ
、芸術家にとってそれは理想の人生です。その後広い野原や家の中を
描くようになりました。寂しさはあっても劇的なものではあり
ません。私にとってはそれが自然だったのです。」

 この文章を見なかったらこの雑感を書かなかったでしょう。
アンドリューのこの少年期の引きこもり傾向がアンドリューの作品の
骨格になっていると思います。彼はペンシルバニア州と別荘があった
メイン州以外の身近な平凡な風景以外描きません。人物もその土地に
暮らす人々です。外国どころかアメリカの他のいかに美しい風景も
彼には興味がなくただ風の吹く秋や冬の寒い郊外でのみ制作意欲を
かきたてられる特異な存在です。

 後にアンドリューの名声を高めた作品、冬(1946年)や
クリスチーヌの世界(1948年)はいずれも荒涼とした野原に
一人さまよう人物が描かれています。まさに特別なドラマではなく
アンドリューにとっての自然なことだったのだと思います。
 終生アンドリューの主題はアメリカ農村の風景とそこに生きる
人物か仮の姿として現れるオブジェに限定されています。頑固に
頑固にいくら時代が変われど周囲が変化しても同じ主題を扱って
いるように思います。

日本では「メランコリー」「リリシズム」といった孤独や憂鬱
を基本感情とする絵画があまり見られないと思います。又、評価
されることもないと思います。彼は沢山の習作から大作のテンペラ
画を完成しますがその表現方法はリアルな描写です。しかし実際には
かなりアレンジされ元の風景とは違っています。

 学校へ行かない子供がいくら内部世界を膨らませようとそれは絶対に
世間に評価されることはありません。登校拒否、不登校、引きこもり、
対人恐怖、将来社会生活が不安な子供、そのような言い方が一般的
です。

 日本では子供の10人に一人は学校に行きたがりません。そして20人に
一人は実際に学校へ行っていません。ようやく最近「無理に学校へ
いかせるだけが能ではない、独自の世界に価値を見出せる環境づくり
が大切」といった世間の動きもあります。しかし学校へ行けない子供が
大変な「劣等感」と「狭さ」の中で日々を送っているのが現実です。

 「引きこもり」は絵を描く人間には特に珍しい変わった人生では
ないと思います。最も楽天的な考え方は「好きなことを毎日継続して
たっぷり行うことができる」ということです。しかしそれが許され
容認される環境は物質的に恵まれていることと保護者が芸術家の
「小さな独自の世界」を理解することです。

 アンドリュー・ワイエスの絵画には驚くほど「窓」と「ドアー」が
描かれています。これには事情があります。日本人の画家にはほとんど
ありえません。部屋にいる子供にとって「窓」と「ドアー」は自分の内部
世界と外部をつなぐ回廊です。学校へ行かない子供はいつも窓と
ドアーを見つめています。外に出たい、しかし不安もある。誰か
私の理解者がこないだろうか?その他あれこれ。

 日本の窓やドアーの感覚は建築物の構造の違いから西洋とは少し
違うかも知れませんが、アンドリュー・ワイエスの「窓」と「ドアー」
に対する執着は異常です。そして名作もたくさん作りあげられます。
畑や丘をさまよっていた少年の心は「孤独」と「恐怖」に裏打ちされた
あまり例のない自然に対するイメージを創ります。後は修練によって
、その作品の数も誰よりも多いものですが、技量はどんどん発達し、
アメリカ伝統のリアリズムの上にさらなる頂点に達します。

続く


 



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