COTTON N.-Plus vol.30 「プロポーズ」
残暑の青空。強い日差しが照りつける動物園。日陰になっている馬の柵を見つけて、しばらくぼんやり見ていた。いや、僕はぼんやりどころか、緊張していた。そして、彼女に話しかけた。「もしも君がいなかったら...」「うん?」彼女は視線を白い仔馬から僕にほうに向けた。「いいから、最後まで聞いてくれ」僕は彼女の眼を見つめた。「もしも君がいなかったら、この世界は広すぎて、僕は途方に暮れる」静寂を乱す蝉の声が遠くに聞こえる。「それって...」「こんなセリフ、普通じゃ考えないさ」彼女は目を閉じた。そして言った。「そのセリフ、30年後でも言える?」「ああ」「それなら、一緒にいてあげるよ、ずっと。あなたが迷子にならないように」僕の心拍数が少しずつ落ち着いてくるのを感じた。