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カテゴリ:民法
第3章 契約は問題なく結ばれても・・・の続き ------------------------------------------------------------ ------------------------------------------------------------ 前回は契約が問題なく結ばれたものの、壷を渡す義務を負っていた三島さんによって壷が壊された場合についてお話しました。 今回は清水君や他の人によって壷が壊された場合についてお話しましょう。 ------------------------------------------------------------ まず、清水君のせいで壷が壊れた場合、三島さんのせいではないのですから、前回の話のように、三島さんに損害賠償請求できるはずはありません。 では、解除くらいなら認めてもいいのでしょうか。 確かに、壷が壊れたから話を無かったことにしようというのもありえなくもありません。 契約を無かったことにして、三島さんが清水君に改めて壷の代金を弁償してもらえば良いとも思えます。 しかし、三島さんはそれで満足するのでしょうか。 三島さんは普通、壷をお金に代えたくて契約しているのです。 三島さんとしては、「とにかく代金を払って欲しい」と考えるはずです。 そこで、法律も弁償すればよいとは考えず、とにかく予め決めた代金を払うように定めています。 (債権者の危険負担) 第五百三十四条 特定物に関する物権の設定又は移転を双務契約の目的とした場合において、その物が債務者の責めに帰することができない事由によって滅失し、又は損傷したときは、その滅失又は損傷は、債権者の負担に帰する。 「特定物」というのはかなりややこしいですから論述は避けますが、壷は「特定物」であると考えてください。 債権者のせいで壷が壊れたと言うのは、債務者のせいでなく壷が壊れたと言うことですから、「債務者の責めに帰することができない事由によって滅失又は損傷」したことになります。 そして「債権者の負担に帰する」というのは代金を債権者が負担すると言う意味なのです。そして、債権者とは契約上何かを受け取れる人を言います。 この場合、清水君は壷を受け取れる人ですから、清水君が債権者と言うことになります。 このように債権者たる清水君のせいで壷が壊れた場合、三島さんは清水君に「代金を払え」ということができます。 これを、危険負担の債権者主義といいます。 ま、当たり前といえば当たり前なんですが。 ------------------------------------------------------------ ------------------------------------------------------------ では、契約時には登場していなかった第三者によって壷が壊されたらどうなるのでしょうか。 蒲原達樹(第三者)のせいで壷が壊れたときは、もちろん、最終的に蒲原達樹に損害賠償請求できます。 蒲原達樹は犯罪者となり弁償できないかもしれません。 そこで、どちらが弁償を受けられない危険性を負うかもかなり問題となるのです。 では、どちらがその危険を負うのが妥当でしょうか。 壷が壊れたのは、蒲原のせいであり、債権者清水君のせいではないし、債務者三島さんのせいでもありませんん。 ですから、どちらのせいかという観点からでは説明できません。 そこで、どちらが損害を負ってもやむを得ないかという観点で考えてみましょう。 ここで、所有権を持っている者は時間の経過によって値上がり、値下がりした場合には、その所有権者が利益・損失を引き受けます。 そして壷が壊れることは壷が値下がりして0円になることと同じです。 そこで、壷の所有権を持っている者が弁償を受けられない危険性も引き受けるべきと考えられます。 では、契約後、壷の所有権は誰に移っているのでしょう。 ちゃんと条文があります。 (物権の設定及び移転) 第百七十六条 物権の設定及び移転は、当事者の意思表示のみによって、その効力を生ずる。 「物権」とは所有権だと思ってください。 そうすると、所有権は意思表示によって移転するということになります。 そして意思表示とは約束であり契約の要件でありますから、大雑把に言って契約によって所有権が移転することになります。 ここでは、契約自体は問題なく成立していますから、契約の時点で所有権は移転し、壷の所有権は清水君に移ることになるのです。 よって清水君に弁償を受けられない危険を負わせることも止むを得ないことになります。 つまり、三島さんは清水君に代金を支払えと言うことができるのです。この結論は実はもう説明済みなのです。 もう一度、前回出てきた条文を見てみましょう。 (債権者の危険負担) 第五百三十四条 特定物に関する物権の設定又は移転を双務契約の目的とした場合において、その物が債務者の責めに帰することができない事由によって滅失し、又は損傷したときは、その滅失又は損傷は、債権者の負担に帰する。 実は、昨日出てきた条文は債権者に限定していませんね。 単に「債務者の責めに帰することができない事由」としか書いていません。 つまり、債務者以外のせいで壷が壊れた場合全般についてこの条文が適用されるのです。 ということは、蒲原達樹のせいで壷が壊され、清水君のせいで無くても三島さんは清水君に代金を支払えと言えるのです。 これも危険負担の債権者主義といいます。 これは確かに清水君にあまりに酷だとは思います。 そして、先ほど申し上げましたとおり清水君に我慢してもらうこともやむを得ません。 みなさんも物を買うときは重々ご注意ください。 これからも応援してくださる方は、下記のリンクをクリックしてください。 人気blogランキング お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2006年12月06日 22時29分24秒
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