2008/01/24(木)20:59
破産法編第4章 1破産者の権利
第4章 破産と権利能力・行為能力
1 破産者の権利
今回は,破産者自身はどうなるのか,お話します。
まず,破産者が自然人(個人)の場合,原則として,士業等の公的資格が必要な職業に就くことが出来ない(これを資格制限と言います)こと以外は,法律上の不利益はありません。厳密に言うと,代理人・後見人・後見監督人・遺言執行者にもなれませんが,これらに就いている方はごくわずかなので,気にしなくて良いと思います。
しかも,資格制限は復権が認められれば回復するので,一生資格制限されっぱなしというわけではありません。
(復権)
第二百五十五条 破産者は、次に掲げる事由のいずれかに該当する場合には、復権する。次条第一項の復権の決定が確定したときも、同様とする。
一 免責許可の決定が確定したとき。
二 第二百十八条第一項の規定による破産手続廃止の決定が確定したとき。
三 再生計画認可の決定が確定したとき。
四 破産者が、破産手続開始の決定後、第二百六十五条の罪について有罪の確定判決を受けることなく十年を経過したとき。
そのほかの不利益としては,官報に掲載されると言うのがありますが,官報を見るのは,国家試験の合格発表の時くらいであって,普通に生活している分には見ないでしょうから,大した不利益ではないでしょう。
また,法律以外の場面での不利益といえば,いわゆるブラックリストに載って,クレジットカードが作れなくなるらしいです。ただ,考えようによってはこれ以上借金できなくなるので,むしろ利益かも知れませんね。
このように,公民権がなくなるとか,牢獄に入れられるとか言うのはデマなのでご安心ください。
ちなみに,法人の場合は,破産手続開始決定は解散事由になりますが,破産手続終結後,同じ法人を作ることまで禁止されるわけではありません。また、会社法成立により、破産者でも取締役になれることになりました。
ということで,破産しても大した不利益はありません。
ですから,経済的に行き詰ったら,破産も選択肢の中に入れてください。破産を恐れて,より悪い選択をしてしまうのは避けてください。
さて,破産というと,原則としては破産者の全ての財産を清算(換価)して,債権者に配当します。
つまり,破産者の財産を,「破産財団」と呼んで破産管財人に管理させ,適宜処分して,配当します。
(破産財団の範囲)
第三十四条 破産者が破産手続開始の時において有する一切の財産(日本国内にあるかどうかを問わない。)は、破産財団とする。
(破産管財人の権限)
第七十八条 破産手続開始の決定があった場合には、破産財団に属する財産の管理及び処分をする権利は、裁判所が選任した破産管財人に専属する。
しかし,文字通り全部の財産を換価したら,衣食住全てを失い,その日から路頭に迷います。
それではあんまりなので,破産者の自由に出来る財産を認めることが出来るとされています(これを自由財産といいます)。
(破産財団の範囲)
第三十四条
3 第一項の規定にかかわらず、次に掲げる財産は、破産財団に属しない。
一 民事執行法 (昭和五十四年法律第四号)第百三十一条第三号 に規定する額に二分の三を乗じた額の金銭
二 差し押さえることができない財産(民事執行法第百三十一条第三号 に規定する金銭を除く。)。ただし、同法第百三十二条第一項 (同法第百九十二条 において準用する場合を含む。)の規定により差押えが許されたもの及び破産手続開始後に差し押さえることができるようになったものは、この限りでない。
4 裁判所は、破産手続開始の決定があった時から当該決定が確定した日以後一月を経過する日までの間、破産者の申立てにより又は職権で、決定で、破産者の生活の状況、破産手続開始の時において破産者が有していた前項各号に掲げる財産の種類及び額、破産者が収入を得る見込みその他の事情を考慮して、破産財団に属しない財産の範囲を拡張することができる。
ここで,「差し押さえることが出来ない財産」とは何かと言うと,以下の通りです。
全部重要なので,全部引用します。
(差押禁止動産)
民事執行法第百三十一条 次に掲げる動産は、差し押さえてはならない。
一 債務者等の生活に欠くことができない衣服、寝具、家具、台所用具、畳及び建具
二 債務者等の一月間の生活に必要な食料及び燃料
三 標準的な世帯の二月間の必要生計費を勘案して政令で定める額の金銭
四 主として自己の労力により農業を営む者の農業に欠くことができない器具、肥料、労役の用に供する家畜及びその飼料並びに次の収穫まで農業を続行するために欠くことができない種子その他これに類する農産物
五 主として自己の労力により漁業を営む者の水産物の採捕又は養殖に欠くことができない漁網その他の漁具、えさ及び稚魚その他これに類する水産物
六 技術者、職人、労務者その他の主として自己の知的又は肉体的な労働により職業又は営業に従事する者(前二号に規定する者を除く。)のその業務に欠くことができない器具その他の物(商品を除く。)
七 実印その他の印で職業又は生活に欠くことができないもの
八 仏像、位牌その他礼拝又は祭祀に直接供するため欠くことができない物
九 債務者に必要な系譜、日記、商業帳簿及びこれらに類する書類
十 債務者又はその親族が受けた勲章その他の名誉を表章する物
十一 債務者等の学校その他の教育施設における学習に必要な書類及び器具
十二 発明又は著作に係る物で、まだ公表していないもの
十三 債務者等に必要な義手、義足その他の身体の補足に供する物
十四 建物その他の工作物について、災害の防止又は保安のため法令の規定により設備しなければならない消防用の機械又は器具、避難器具その他の備品
こうやって見ていただければ分かりますとおり,意外と差押禁止動産は多いのです。
実際,借家住まいの1人暮らしの人には差押可能な財産はほとんど無いらしいです。
また,民事執行法に定められていることでもお分かりいただけます通り,破産に限らず,個別に執行を受けた場合でも同じですので。是非覚えておいてください。
ドラマなんかですと,最低限生活できるものをのぞいて一切合財差押えられ,赤紙を貼られていますが,実際はそこまで酷くないということです。
例えば,勉強道具や仏壇にも赤紙が張られるシーンがありますが,勉強道具は11号に当たりますし,仏壇は8号に当てはまりますので差押えできません。
また,これら以外の物は差押可能とはいえ,所詮中古品ですから,安くしか換価できません。そこで,動産に強制執行されそうになったら,友人に頼み込んで,差押えされる日に差し押さえられた物を買い取ってもらえばいいのです。そして,買い取ってもらった物をそのまま使わせてもらえば良いでしょう。(動産は,わざわざオークションにかけることは少なく,その場で古物商に買い取ってもらうらしいです。そういえば,夜逃げ屋本舗という映画にそういうシーンがありましたね)
ちょっと長くなってしまったので,続きはまた次回にしましょう。
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【参考本】
倒産法概説
この本は、破産法のみならず、民事再生法・会社更生法といった倒産関連の法律を横断的に解説してくれます。破産法・民事再生法・会社更生法を比較して学べます。
執筆者は学者の先生ですが、あまり固くなく、比較的読みやすい本です。