マックス爺のエッセイ風日記

2015/12/26(土)06:25

マックス爺2015年の述懐(1)

芸術論(165)

<映画・映像編>      12月見た3本の映画は、いずれも戦争に関係するテーマだった。最初が『母と暮せば』だが、これは長崎の原爆で亡くなった息子(二宮和也)の亡霊が産婆をしている母(吉永小百合)の元に時々現れ、2人で元恋人の娘(黒木華)の将来を心配する話だが、戦争の場面は全く出て来ない。それどころか原爆投下の場面すらない。それでも戦争に翻弄された市民の苦しみや、戦争の悲惨さが十分観客の胸を打つ秀作だった。監督及び脚本は山田洋次。                この映画は井上ひさしの遺志を継いだものとのこと。劇作家の井上は広島を舞台にした『父と暮らせば』を先に世に出した。次いで長崎、沖縄をテーマにした三部作を構想しながら実現せぬままこの世を去った。だから舞台が長崎となったことだけが井上の構想だっただけ。音楽の坂本龍一は、特に山田監督が熱望したものだった由。こうしてこの世にいないものの遺志が、1本の美しい映画になった。私は映画を観ながら、長崎のブログ友が撮った写真の風景を思い出していた。    次に観たのが『杉原千畝』。名前は「ちうね」と読む。戦前の外交官で、これは彼がリトアニア領事代理を勤めた頃の実話。ヒトラーが引き起こした第二次世界大戦の影響で、たくさんのユダヤ人がリトアニアに逃げて来る。だがソ連は自国を通過することを拒み、日本本国もビザの発給を禁止する。杉原は自分の責任で手書きのビザに署名し続け、6千人もの命を救ったのだ。実現の陰にはウラジオストック領事館勤務の後輩が、やはり外務省の意思に背いて、彼らを日本行きの船に乗せたことも大きかった。                戦後杉原は退職を勧告され、外務省を去った。彼はあのビザ発給を民族問題としてではなく、難民問題として捉えていたのだ。その後職を転々としながらも、彼はあのユダヤ人のその後を気にかけ続けた。外務省が杉原の名誉をようやく回復したのは、退職後53年経った平成12年になってからだった。だがその前に6千人もの命を救った杉原は、イスラエル、リトアニア、アメリカなどで顕彰を受けている。戦争の最中に人類愛に燃えた日本人がいたことを、私達は心から誇りに思う。    最後は『スターウォーズ フォースの覚醒』。話題作なので観に行ったが、実に詰らない映画だった。ジョージ・ルーカス監督がその前の6作を世に出して話題となった。この7作目はJ.J.エイブ監督作品。観る人が観たら面白いのかも知れないが、私はがっかり。人類の将来が異星人との戦いに終始すると思ったら、夢がないのは当然だ。  地球上でも戦い続け、広い宇宙に進出した後もまだ殺し合いを続ける人類。高速の宇宙船に乗って飛び、赤く光る「刀」や青く光る「刀」を握って戦う姿に、私は何の希望も感じなかった。あれが人類の末路とは思いたくもない。以下、今年観たその他の映画を列挙しておく。                           2月『アゲイン~28年目の甲子園~』。『マエストロ!』。☆『エクソダス』。  3月『くちびるに歌を!』。『風に立つライオン』。☆『アメリカンスナイパー』。  4月『ジヌよさらば』。『龍三と七人の子分たち』。  5月『駆け込み女と駆け出し男』。  7月☆『アリスのままで』。『愛を積む人』。      8月『日本のいちばん長い日』。  11月『エベレスト』。 これに12月が3本で計16作品。☆は洋画。  私が良かったと思った作品は、『エクソダス』、『風に立つライオン』、『アリスのままで』、『日本のいちばん長い日』、『エベレスト』。それに今月観た『母と暮らせば』と『杉原千畝』。どうやら私はヒューマンな作品が好きなのだろう。そして歴史的に見て虚偽な作品は嫌い。人間の真実の姿が知りたいのだ。                テレビドラマについても少し触れておきたい。今年観た中で良かったのがNHKの大河ドラマ『花燃ゆ』。視聴率はさほど上がらなかったようだが、歴史が好きな私にはとても面白かった。舞台は幕末。あの我が国最大の混乱期に、日本人はどう行動し、どう生きたのかの姿があった。前年の『八重の桜』もそうだったが、特に時代に翻弄されながら健気に生きた女性の姿が印象的だった。あの先達の活躍が、今日の日本を支えていると言っても過言ではない。     そしてご存知朝ドラの『あさが来た』。こちらはまだ継続中だが、実に面白い。歴史的な内容で、それも幕末から明治にかけての実話を元にしたドラマ。そしてこれもまた女性がストーリーの中心になっている。あの時代、私達の祖先は圧倒的な外国の力に押しつぶされようとしていた。それから免れることが出来たのは、やはりその基礎となる国民性や知恵があったからだと思う。私が歴史に惹かれる所以でもある。歴史とは、そして映像とは実に面白いものだ。<続く>

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