おせんの江戸日誌

2011/01/07(金)18:10

春の薮入り

惚れ薬(84)

この年も怠ることなく仕事に励むように、と年頭の挨拶を 締めくくった丑蔵を前に、居並ぶ小僧たちは殊勝げですが その頭の中はきょうから始まる二日間の薮入りでいっぱい なのは明白です。 盆と同じく正月の薮入りも日にちが決まっているのですが、 桐屋では世間とは違って元旦とその翌日の二日を薮入りの 日としています。 正月の薮入りには小遣いだけでなく、着物の一揃えを主人の 丑蔵から貰って親元に帰れるのですから小僧たちが喜ぶのも 無理もありません。     他国から来ている小僧の場合だと、江戸での請人(身元保証 人)の家で過ごすことになりますが、これはこれで楽しみで あるのは間違いありません。 ちなみに薮入りはまだ子どもである小僧たちが家に帰るもの で、同じ住み込みでも成人している奉公人たちは店に残って 思い思いの休暇を過ごすことになります。 小僧たちが一斉に喋り出す声を背に、自室に戻りかけた丑蔵 でしたが、ふと思いたって台所の板戸を開けました。 大晦日の茶の一件をおシカに直接聞こうと思っての事だった のですが、そこに人影はありませんでした。 かまどの大鍋からは湯気がたっていて、板場には刻みかけの 野菜が置かれたままになっています。 中庭への板戸が開け広げられているのは、井戸端へ洗い物に でも行ったものか・・・ 「おシカ。これ、おシカはいないのかえ!?」 けれど、呼びつける丑蔵の声が終わらないうちに水桶を下げ て戸口から入ってきたのはおシカではありませんでした。           ・・・・・・・惚れ薬(七十七) にほんブログ村ランキング参加中 このお話し、こちらが第一話めとなっております。 途切れることなく続けてご覧になれます。

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