さほどの薬
当初日々の暮らしに必要な金は自分たちの手で、と主張した八平太は薬を売りながら黒井半介を探すという案を語り、そのあとに「あまり良く効く薬は作るな」と、吉之助に釘をさしました。効き目のある薬を売れば、いづれ評判を呼ぶのは間違いのないことで、その噂が江戸市中に潜み隠れているという黒井の耳に入るのを恐れてのことなのです。薬売りの男の風貌を耳にした黒井が、薬を売っている男が八平太だと感づいてしまえばきっとまた姿を消すに違いありません。「ゆえに効くような効かないような薬を作るのだ。 まるっきり効かないのも困るが、効きすぎるのも 考えものじゃ。 そこそこに売れる、そういった薬だゾ、吉之助」わざわざ効かぬ薬を作れなどとは初めてだ、と吉之助は苦笑しながらも素直に応じました。感冒にはスイカズラの蔓茎、下痢には青梅の燻製を用いと、それぞれの用途にぴったりの薬材を使いながらも、さほどの効果が得られないように工夫を加えます。それは毒にも薬にもならない草や木の葉を良く洗い、それを天日に干して乾燥させ刻んだもので増量するというものでした。ほどなくして思った通りの煎じ薬が出来、それからはその薬を売りつつ黒井を探している八平太なのです。・・・・・・・惚れ薬(三十九)三日めにほんブログ村ランキング参加しております。もしよろしければ上記のバナーをクリックしての応援をお願いします。初めての方はこちらが第一話めとなっております。途切れることなく続けてご覧になれます。