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あなた作る人、わたし奪う人

世界史コンテンツ(のようなもの)


~ 古代 4限目 あなた作る人、わたし奪う人 ~ 
 










「古代では、最後になる講義を今から始めたいと思います」





「は~い。それで、今日の講義は何?」




「最後に、遊牧民(騎馬民族)について話をしようと思っています。ローマとの関係で、フン族についての説明が多くなりますが、どの遊牧民も似たようなものですから大きな問題はありません」





「随分といい加減だな」





「古代においては、スキタイ族もフン族も匈奴も軍事的に、その本質的部分は変わりがないのです。さすがにモンゴルまで行くと、攻城兵器の大規模な投入など有意な差が見られますが」




「そういうものか。そういえばフン族のヨーロッパ方面への軍事的進出がゲルマン民族大移動を引き起こしたのだったな。世界史的な意義を考えれば、フン族は確かに重要だ」




「世界史的意義なんてど~でもいいじゃない。もともとニッチ市場狙いのコンテンツなんだから。ゲルマン民族大移動なんて受験に出てくるようなエピソードよりも、『フン族のアッチラ大王は、結婚式で暴飲暴食をして、鼻血を出しても気にせず続けた末に、次の日の朝鼻血で窒息死した状態で見つかった』とか、そういう話の方がいいんじゃない?」





「ニッチも結構。しかし、まったく読者がいないような気がするのだが…。某リンク集にまで華麗にスルーされ続けるくらいだからな





「う~ん…一応『世界史コンテンツ』でググると上から5番目くらいには表示されるのにね。やはり内容が(以下略)」





「・・・いろいろ思うところがあるようですが、講義を続けてもいいですか?」





「ああ、存分に続けてくれ。今までどおり」





「今更路線変更はできないしね」





「それでは遊牧民の定義ですが、ある学者の定義を紹介しましょう。

遊牧民の定義

(1)主たる生業活動が牧畜であること。
(2)家畜を、一年中天然の牧草地で、粗放な状態で飼育すること。
(3)一定の牧草地の範囲内で季節的・定期的に移動すること。  
(4)移動にあたっては住民の大部分が参加すること。
(5)自然経済の形態が優越すること。

    (旧ソ連の遊牧文化研究の民族学者A.ハザノフによる)






「まぁ、一般的なイメージと大差ないな。ただ(5)が少し分かりづらいか」





「自然経済とは、ココを参照してください。自給自足を原則とした貨幣経済の前段階のようなものと大まかにとらえれば良いでしょう」





「農耕民と比べると、なんか原始的な感じね」




「ステップを生活圏とする以上、そのような生き方しかできないと言った方が正確です。農耕民が、自然に対して常に積極的かつ攻撃的に働きかけることによって糧を得ようとする人々だとすれば、遊牧民とは、自然に全面的に依存し、ありのままの自然がもたらす僅かな恩恵だけを当てにして生きる人々であると言えるでしょう」





「現代のエコロジスト達が理想とするような生き方だな」





「理想…ですか。ステップの大地は凄まじく貧相です。見渡す限り一面に広がる荒地、それに包囲されるように小さな草地が点在し、どの草も貧弱で硬く、他の豊潤な地域の草食動物では見向きもしないような代物でした。灼熱と極寒が交互に繰り返され、僅かに棲息する動物は狡猾で臆病で凶暴で痩せている…」





「理想というのは皮肉だよ。自然なんてものは、そもそも人間に優しいわけじゃない。それに昔ながらの農法・放牧・狩猟が環境破壊に繋がった例など無数にある」




「はい。彼らの生活は実に苛烈なものでした。ステップの遊牧民の経済と生活の基盤は農耕民のそれに比べて非常に脆弱で、ちょっとしたアクシデントでいとも簡単に崩壊します。 彼らを取り巻く自然はどこまでも情け容赦なく、家畜の疫病、干魃、寒波、自身や家族の傷病等、何でも簡単に死に直結しました。彼らは、死神と隣り合わせの日常を生きていくのではなく、生き抜いてきたと言えるでしょう」





「そんな生活だと日々の糧を得るだけで精一杯になるわね。あ!だから非文明的な生活にならざるを得ないわけか」




「そうですね。ステップ遊牧民には何かを生産する能力はありません。毛皮を除けば、彼らの衣服、武器、馬具、天幕、什器、その他諸々の生活必需品は全て交易か掠奪によって得たものでした。このことは、遊牧民がステップ周辺の農村地域に大きく依存しなければ生存できないことを意味しています。遊牧民は絶えず農耕民と交流していかなければならなかった訳です」





「例えそれが農耕民にとって好ましからざる『交流』であったとしても、か」





「そんな乱暴な交流でなくても、交易すればいいじゃない。いちいち戦争してたら、そっちの方が双方に損失になると思うけど」




「もちろん交易は行っていました。しかし、ステップ周辺部の比較的豊かな農村地帯には遊牧民が集中します。そうするとすぐに交易は破綻してしまいます。なぜなら遊牧民にとって交換できる産品は羊毛製品と毛皮くらいしかないからです。供給過多となり交易が不可能となると、遊牧民は略奪のために農村を襲撃することを躊躇いません」





「そんな、すぐに略奪なんて安直過ぎる…」




「戦いを躊躇わないという点で、ステップの遊牧民の戦争観は極めて単純明快です。今日戦わねば明日は飢え死にするしかないような切迫した状況では、悠長な交渉や外交に時間を費やす訳にはいかないでしょう。妥協の末の平和的共存などという選択も論外。なぜなら敵と資源を分けあえる程にステップの大地は豊かではないのですから。ステップの遊牧民はいとも簡単に武力を行使しました。荒野を生き抜いてきた彼らにはそれだけの能力と覚悟があったのです」




苛烈な日常を過ごす遊牧民が他人に対して苛烈になれない訳がない。農耕民と遊牧民は考え方からして全く別の生き物だな」




「はい。遊牧民と農耕民はお互いに侮蔑し合っていました。農耕民から見ると、鳥や獣のようにあちこちに移住するような人間とは適当な関係を結ぶことが出来ないと考え、遊牧民の進入を虫害のようなものと見なしていました。その一方、遊牧民から見ると、手と膝で地面にひっかき傷をつけることで一生終える下らない連中と考え、その価値は馬以下でしかなく、単なる略奪すべき資源以上のものとは思っていませんでした」





「お互いにそういう風に見ていたとしたら、友好関係なんて無理な話よね」





「遊牧民と農耕民は戦わざるを得ない運命にあったということか」




「ちょっと疑問に思うんだけど、遊牧民ってそういう遊牧生活をしているなら人口は農耕民族に比べて少ないはずでしょう?そんな連中がどうして大きな脅威になるの?」




「そうですね。例えばフン族の騎兵は、馬術に関しては当時のローマの騎兵戦力の中核を担っていたゲルマン騎兵より遙かに優れ、騎射の技術では小アジアの弓騎兵より遙かに優れていました。 それは、ステップ系騎兵にとり、馬術と騎射の技術は戦闘のみならず生きていくための必須の技術であり、遊牧民族として生まれたからには、この二つの技術を修得する以外に生き残る道はなかったからです。ステップ系騎兵に対抗できる騎兵を農耕民が編成できなかった理由がここにありました。農耕民は、彼らの戦技を自軍の騎兵に採用することは出来ましたが、ステップ系騎兵に匹敵する弓騎兵を養成することは最後まで出来なかったのです」





「兵士としての質的な優勢だけでは厳しいと思うけど」




「もちろんそれだけではありません。他にもいくつか理由はあります。フン族の戦士は全員が典型的なステップ系騎兵で、ほぼ例外なく合成弓を装備していました。ローマ人が「スキタイの弓」と呼ぶ合成弓は、全長に比して強い張力を必要としたため、威力の割に取り回しに優れ、馬上での扱いに適していた訳です。弦を引く距離も僅かだったことから、ステップ系騎兵は獣骨製の鏃を備えた全長の短い矢を使用できました。 短い矢は、多く携行できるという利点のみならず、空気抵抗による威力の低下が長い矢よりも小さく、長距離でも十分な威力を備えていることを意味します。彼らは疾走する馬上からの射撃で、必中距離約30~50メートルという極めて優れた能力を有していました」




「必中距離約30~50メートル!それは…。当時のローマ軍にその交戦距離で戦うことの出来る兵科は存在しなかったはず。とんでもない脅威だよ」





「ローマにだってゲルマン騎兵はいたんでしょう?多少質的に劣っても対抗できないことはないと思うわ」




「機動力に劣る歩兵や重騎兵はこの戦法に対抗できませんでしたし、軽騎兵ですらステップ系騎兵の馬術には対抗できませんでした。ただ、フン族の戦法にも欠点はあります」




決定力不足だな。今の説明を聞くとフン族の騎兵は極めて優秀な弓騎兵というだけの存在に過ぎない。それでだけでは、決戦において決定的勝利を収めることは不可能だ」




「そのとおりです!迂回や奇襲、偽装退却による誘引と伏撃の連携といった機動の発揮を前提とした軽騎兵の戦術を基本として、圧倒的に優れる機動力を活かした騎射による漸減を繰り返すような戦術を採用せざるを得なかったということです。ステップ系騎兵の優位点は、速度だけですから、それを活用するしかありません。機動を重視する思想はその隊形にも現れており、フン族の騎兵は指揮官を頂点とする緩やかな楔形の隊形を組んだそうです」





「楔形?旧ドイツ軍のパンツァーカイルみたいなものか?」




「いいえ、これで突撃することは自殺行為です。この隊形の本質は、指揮官が隷下の全ての騎兵の前方に位置することによって部隊を先導し、部隊の機動発揮の際の運動性と柔軟性を向上させることにあります。重装甲の戦車を前衛に置いて突撃するパンツァーカイルとはまったくの別物と考えてください」





「なんか、ますます分からなくなってきたわ…。地中海世界最強のローマ軍が、その程度の敵に勝てないの?それから人的資源の少なさについても答えて貰ってないわね」




「ご心配には及びません。ちゃんと全て説明します。さきほども言いましたが、彼らの最大の武器は速度、すなわち機動力です。これが全ての答えとなります」




「なるほどな、言いたいことは理解できる。たとえ少数の兵でも機動力があれば、神出鬼没の戦いを繰り広げられるだろう。鈍重なレギオンなどに比べれば数倍の兵力があるのと実質的に同じこととなる」





「う~ん…でも所詮は寡兵でしょう?機動力だけでそこまで違うかなぁ」




「機動力が高いということは、望む場所で望む相手と戦うことができるのです。すなわち敵の予期しない時期と場所において、敵に戦闘を強要できることを意味していました。これは常に戦闘での主導権をフン族側が握っていたことになります」





「兵科としての純粋な攻撃力や防御力では、フン族の騎兵はローマの重騎兵にかなわなかっただろう。大規模な決戦でもローマ軍に決定的な勝利は難しかったはずだ。しかし、そんなことは重要ではない。彼らの圧倒的な機動力こそがローマ軍を苦しめることになった、という訳だな」




「なんとなく分かったような気がするんだけど…なんか納得できないわね。圧倒的な機動力っていうけどローマの騎兵だって軽騎兵なら追随はできるだろうし、有名なローマの街道を使って素早く兵力を展開できるのがローマ軍の強みだったわけでしょう?そんな一方的な展開でフン族に主導権を取られ続けるものかしら?」




「遊牧民の機動力を舐めて貰っては困ります。ステップ系騎兵は、農耕民の兵士に比べて、より長距離を移動し、より短い時間しか眠らず、より少ない食糧で戦うことができました。退却するとなると、荒涼とした大地を何日も退却し続け、ひとたび迂回を始めると、何百キロも離れた国境線を突破し、手薄な町や村を蹂躙する。こんな芸当は農耕民のローマ人にとって理解の埒外にありました。とても従来の軍事システムで対応できるレベルではなかったのです」





「遊牧民の苛烈な生活環境が、彼らを卓越した騎兵として鍛え上げたということか…。そんな凄い連中を相手にしたら、そりゃ勝てないわけね」





「全軍が同じ機動力をもつ軽騎兵の軍隊だとすると、たとえ野戦でローマ軍が優勢になってフン族の部隊が逃げたとしても追撃すら難しい。いったいどうやって打ち破ればいいのか…」




「そうですね。例え強力な遠征軍をステップに送り込んでも、遊牧民は荷物をまとめて別の場所に移動してしまうでしょうし、そもそもステップに戦略的に緊要な地域など存在しません。それ以前に、ステップでステップ系騎兵と戦うこと自体が自殺行為です。それに貧しいステップの大地では大部隊を運用することすら難しいでしょう。仮にステップの一角を占領しても何も産み出さない不毛の土地を得るだけで、もし遊牧民の集団を捕捉できても貧しい彼らから奪える戦利品など殆どなかった訳です。遊牧民への軍事遠征のための支出を埋め合わせるだけの収入はまず期待できず、将来的な利益となる可能性もありませんでした。結局、軍事行動で遊牧民を屈服させようとする試みが成功する公算は極めて低く、例え成功しても出費がかさむだけの暴挙でしかありません」





「対処のしようがない…まさに虫害のようなもの、か」




「遊牧民の強みは他にもあります。指揮官となる軍事指導者についてですが、遊牧民の決定システムは最も優秀な戦争屋を選ぶ仕組みになっているため、無能な指揮官に率いられるというリスクを回避できます。また、アルクェイドさんから質問のあった人口の問題ですが、確かに遊牧民は農耕民に比べて人口が少ないのですが、人口比で兵士の割合から見ると、遊牧民は若い成人男子の全員が兵士となるため、単純な人口差よりも兵力差は小さくなると考えてください」





「遊牧民の軍事指導者は無能ではないというが、いったいどうやって軍事的資質を担保するというのだ?」




「遊牧民にとって首長の地位は、軍事的資質が唯一問われる能力と言っても過言ではありませんでした。そしてその権力は戦争時のみ発生するもので、平時には部族の他の者と同程度の存在でしかなかったのです」





「首長と言えば王のようなものだろう?なぜ戦争時以外は他の者と変わらないのだ?」




「農耕民では、細かい差異はあるものの、政治指導者を頂点とする支配体制が確立しましたが、ステップ遊牧民の社会においては、部族の首長の厳格な支配権が入り込む余地はなかったのです。支配者が強固な支配権を確立するためには被支配者を掌握しなければなりません。しかし、最大でも数十人程度の集団が無数に分散し、しかも絶えず動き回っていたため、誰が何時何処にいるのか正確に把握することは不可能でした。ある日、もし一人の偉丈夫が部族全員に自分の強力な統制を及ぼそうと決心しても、彼は実際にどうすればいいのかまでは思いつかなかったでしょう」




「戦争以外は名誉職みたいなものなのね。だったらそんな役目は戦争が得意な人に任せようってみんな思うわけか。農耕民だったら権力使ってお金を集めたりして、その権力を世襲しようとするんだろうけど、遊牧民の首長を世襲させても仕方ないもんね。みんな貧乏で、家畜と担いで運べるだけの財産しか持っていなかったそうだし」




「ただ、4世紀中頃、フン族の各部族は次第に寄り集まって部族同盟が形成され、王権が成立するようになります。初めは一時的なものでしたが、ヨーロッパに多くの部族が吸い寄せられるにつれ常に軍事的緊張が継続されるようになると、本来は戦時のみに発揮される王権は永続化し、無制限化していきました。軍事力のみを背景に、戦利品や朝貢品、または商業便益の形で食糧や生活必需品を近隣諸国から獲得することによって成立していた王権です。この部族同盟が王に期待していたのも、やはり軍事指導者としての役割であり、この遊牧民の帝国は積極的な軍事的成功によってのみ維持される宿命にありました。そして、この厄介極まる帝国がローマと対峙したのです」




「ローマ軍はそんな厄介な相手とどうやって戦ったの?フン族はローマ軍が手を焼いていたゴート族やブルグント王国を簡単に蹴散らしたようなとんでもない連中だよね」




「野戦を行っても決定的な勝利を得られる公算が低いため、ローマは『間接アプローチ戦略』でフン族に対抗することになります」





「リデル・ハートの理論か。確かに直接戦闘以外の方法で勝つしかない訳だが、いったいどのような方法で強力なフン族を打倒したのだ?」




「2つの方法を採用したのですが、どちらも遊牧民固有の弱点を突いたものです。そのうちの1つは『フン族の人的資源の枯渇』を狙った戦略であり、そしてもう1つが、『経済封鎖』です」





「後者はともかく前者の戦略がよく分からないが」




「簡単に言ってしまうと、フン族を傭兵として雇い入れるということです。一部族ごと雇い入れたり、捕虜をそのまま自軍に入隊させたりしていました。それによってフン族の軍事的なマン・パワーを破壊した訳です。まぁ、人的資源の枯渇は他の要因もありますけど」





「???敵対している軍勢をどうやって雇うのだ?金で買収するのか?そもそも、そんな方法では限定的な効果しかないと思うのだが」




「ローマに雇われるにあたって、フン族兵たちに精神的な抵抗感が全く無かったでしょうね。アッティラの旗下に結集したフン族の各部族ですら、国家意識のような上等の概念などは持ち合わせてはいなかったのです。小集団に分散する生活スタイルでは部族間の共同体的な意識も全く育たず、彼らは単に、アッティラの旗の下にいれば利益になると踏んでいたからに過ぎなかった訳です」




遊牧民の強みが一転して弱みにもなるわけね」




「アッティラはローマ軍内のフン族兵を脱走兵と呼び、交渉にあたって彼らの返還を強く求めていましたが、フン族の勢力圏に帰還した兵はほとんどいなかったそうです」




所詮は蛮族ということか…」





「ローマの強力な兵站システムは、1万以上のステップ系騎兵を雇い入れることができました。フン族にとって、豊かな土地で装備を支給され、飢える心配もないローマ軍は魅力的な就職口だったのでしょう」





「もう1つの理由である経済封鎖についてだが、例えば現代のイラク等では十年の経済封鎖でも実質的に軍事力を削いだり、政策の変更を促すことはできなかった。密貿易するクズども(アナンの息子とか)もいたから、不完全な封鎖だったのかもしれないが、それは古代でも同じことだろう。しかも遊牧民族に経済封鎖なんて意味があるのか疑問なのだが」





「経済封鎖とは言っても、現代のそれとは少々意味合いが異なります。むしろフン族の社会構造そのものを破壊する政策と言った方がいいかもしれません」





「経済封鎖なんて生やさしいものじゃなさそうだな…。普通、経済封鎖は戦争の前段階として他国に意志の強要を行う為の一手段に過ぎないはずだが」




「460年代に、ローマはドナウ河流域の都市を全て閉鎖してしまいました。ヨーロッパのフン族の大半はこの地での交易で生活必需品を得ていたため、彼らは大打撃を受けました。フン族との交易を禁じただけならば、フン族にはまだ略奪という手段が残されています。しかし、経済活動を完全に停止されてしまうと、商品の流通が完全に途絶し、略奪すべき戦利品すら消滅してしまいました。 この一種の焦土戦略は、当地に居住するローマ人やゲルマン人にも多大な損失と苦難を招きましたが、蓄えの乏しいフン族に対して、より短期間でより深刻な打撃を与えることができました」




肉を切らせて骨を断つってやつね」





「都市閉鎖…経済活動の停止…ここまでやれば密輸なんて問題にもならないな…」




「フン族の各部族は、生活物資が得られる算段があったからこそヨーロッパに居座り、部族同盟を結成して王の支配を認めていたのであって、その前提が崩れた以上、ヨーロッパにいなければならない義理はありません。 部族の結束は弱まり、フン族の帝国を構成する各部族は自力生存のために分散していくことになります」





「いかにもローマらしいわね~国力にものを言わせてねじ伏せる。我慢比べでローマの国力に太刀打ちできる国なんて古代世界にあるわけないじゃない。全然スマートじゃないけど、それ故にローマの恐ろしさが分かるわ」





「物語だったら、勇猛果敢な英雄や知謀の軍師が奇想天外な作戦で敵を放逐するような展開になるのだろうが、現実では正面切っての戦いで勝てないとなると、経済力にものを言わせて敵部族を買収し、焦土戦略で敵と根比べするという泥臭い戦いになるわけか。まったく、本当に昔から変わらない連中だよ」




「実用的かつ合理的なローマ人ならではの優れた戦略であると思います。中国人は万里の長城を築いて遊牧民に対抗していたようですが、それで身代を傾けていますし





「ローマ軍は戦いより土木建築の方が得意なくらいでしょう?要塞を作ったりする方が向いている気がするけど。ハドリアヌスの防壁とかも作ったじゃない」




「万里の長城は純然たる戦略防衛施設ですが、ハドリアヌスの防壁は領土拡張のための攻撃拠点としての性格が強かったのです。両者の規模も建設された戦略的な環境も異なっているので、簡単に比較はできません。ローマにとって、将来的な採算の取れないインフラ整備が選択以前の問題だった可能性は十分に考えられます」




「フン族の脅威は匈奴ほど長続きしなかったから、結果的には『ローマの長城』を作らなくて正解だったのかもしれないな」





「匈奴って言えば、フン族と匈奴って同じ遊牧民だっていう説があるそうなんだけど、どうなの?」





「フン族は文字をもたない民族でしたからね…。よく分かっていないので何とも言えないです。フン族の一部が匈奴、もしくは匈奴の一部がフン族だったのかもしれません」





「総称説と言う考え方はどうだ?北西の遊牧民全体を中国人はまとめて『匈奴』と呼び、ヨーロッパ人は『フン族』と呼んだ。ヨーロッパ人の言う『フン族』と中国人の言う『匈奴』とは微妙に違うが、中国人に『フン族』を見せれば『匈奴』と言い、ヨーロッパ人に『匈奴』を見せれば『フン族』と言う。そういうものではないのか」




「日本で戦車と言えば90式、アメリカで戦車と言えばM1A2、ロシアで戦車と言えばT-72神。でも、それぞれを別の地域の人に見せて何かと問えば「戦車」「Tank」「Объект」と答えるでしょうって、そんな感じ?」





「・・・なにか一つ激しく違うような気がするが、まぁ、そんなところだ」





「いろいろ想像してみるのも楽しいものですね。しかし、そろそろ時間が来てしまいました。今回の講義、そして古代の講義はこれでお終いです」





「えぇ~~!!もの足りな~い。ブ~ブ~」





「時間が無くてフォロー仕切れない部分もたくさんありますが、本編では一応の終わりになります。補習授業もありますし、それまで我慢してください」





「むぅ~仕方ないから我慢するにゃ」





「次回からは、いよいよ火砲の登場だな」





「はい。お待ちかねでしたね。火砲の登場以降は私から講師が変わりますが、楽しんでください」





「誰が来るのか多少気になるが…。まぁいいか」





「それじゃ、またね~」





大砲の時代(前編)


※アイコンは眠りの園よりお借りしています。


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