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椿荘日記

椿荘日記

マリと『ショパン』

マリが中学生の時、始めて自分のお小遣いで買ったレコードは、有名な「雨だれ前奏曲」の入った、24のプレリュード(前奏曲)集で、演奏者はブライロフスキー(ご存知の方は少ないでしょうね)でした。モノラルの廉価版でしたけれど、とても叙情的で良い演奏でした。

一説には、「雨だれ」前奏曲は一般に知られている曲ではなく(作品24-15)、(作品24-13)ではないかという説があり、恋人サンドが子供達を連れ、下の村(ショパンの胸の病が村民に厭われ、彼らは山の上の古い僧院に滞在していました)に買出しに出掛け、大雨の為(マジョリカ島は雨が多いそうです)なかなか戻って来れず、独り待っていたショパンが、彼らが、もう死んでしまったのではとまで思い詰めた、その時の不安と雨の状況を音で綴った曲だと言われています。
どれが本当の、と言うより全曲が何か,細かい雨に濡れているような、雨の匂いのする曲集です。
この曲集を聞きながら、当時のマリは絵を書きました。

古いお屋敷の窓に、ピアノを弾いている人影がカーテン越しに見えます(ショパンです!)。それを、背の高い古びた門柱に寄りかかって一人の少女が一身に聞き入っています(マリ?!です~笑)。
雨は少女の髪を濡らしますが、彼女は身じろぎもせず、ただ、その人影が奏でるピアノの音色に気持ちを集中しています。

この絵を心理学の先生に見せれば何か言われるかもしれませんね(笑)。でも、もうありませんけれど。
当時のマリは今でいう「引きこもり」(妙な用語ですね)の傾向の強い子供でした。
友人も少なく、碌にものも云わず、学校にいる間は孤立しがちで、話が出来るのは母と姉、そして、そんなふさぎがちなマリが受け付ける、唯一の「お相手役」だった家庭教師の先生と、慕っていたフルートの先生だけでしたので(大好きな父も駄目でした)、家に帰ってすることと云えば、本を読むことと音楽を聴くことだけ、家から殆ど出ず自室に篭る、そんな状態のマリにとってショパンは心の支え、心の兄とも言える存在でした。
ショパンの音楽は、ひび割れ、硬直し、張り詰めた心に染み込むように入ってくる、本当に細かい雨の様な優しさがあります。
自分の中に、引き篭もり、逃げ込み蹲るマリの背中を、優しく撫でてくれるような、そして同時に芯の強い、強靭な精神を感じる、ピアノの旋律にどれほど慰められ、勇気付けられたか分かりません。

ショパンは、今でもマリにとって、心の兄、永遠の恋人、大切な友人なのです。



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