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椿荘日記

椿荘日記

ウィーンとマリ(マリのウィーン遊興記)②

ある打ち合わせの為、「野々村まこと」に似た添乗員氏の部屋に集まったところ、何人かが来ていません。15分ほど待って、不審に思い館内電話で連絡をとったところ、たまたま部屋で休んでいた調律士の男性が、そんな話しは知らない、というのです。添乗員氏は全員ではなく部屋毎に連絡していたので、いくら同室でも今回のツアーが初顔合わせで、滞在中行動がバラバラなお客同士では、どうしても連絡の不備が生じてしまうのでしょうね。

かの「野々村まこと」氏はまだまだ新米さんらしく、今回のツアーで、旅慣れて老練な女性教諭二人連れに、日頃からうっかりによる不備を何度となく指摘されていましたので、今度は思いきり「やり方がなってない」と鋭い注意を受け(やはり「先生」なのですね~苦笑)、すっかりしょげ返って、見るからにお気の毒でした。

そんなことが切っ掛けで、日程前半では朝晩のご挨拶だけで、殆どお話しをしたことの無かった女性教諭の方々と「お知り合い」になり、明日は一緒に行動しましょうという運びになって、午後のお散歩とお茶をご一緒することになりました。
滞在先のホテルからリンク(環状道路)に沿って2区分は楽に離れているザッハーホテルまで、凄い勢いできびきびと話され、目を見張るほどの健脚で歩きとおし、ここの名物であるザッハートルテ(山盛りのクリーム添えでした)をあっさりと平らげたこの元気の良いご婦人達は、、何故かマリを大層気に入ったらしく、明日の昼食の約束をした後やっと(?)開放して下さいました(苦笑)。

因みに、マリの滞在中の平均的な1日をご紹介しましょうか。
朝食をホテルで済ませた後、ロビーで寛いだり部屋に戻って少し休憩してから、お昼前頃に散歩に出掛けます。
ウィーン川に沿ったベンチに腰掛け、白鳥を眺めながら放心したり、綺麗なお菓子屋さんでグラスフルーツ(果物の砂糖漬け)を買ったりして、覚束ないドイツ語でのお買い物を楽しみます。

昼食はカフェで簡単に済ませ、午後の観光を終えたら早めに戻って、ゆっくりバスに浸かり(大変寒いので手足がすっかり凍えてしまっています)、大好きなマリア・カラスの「トウーランドット」のライブ録音をポータブルCDプレイヤーで聞きながら気分を盛り上げて、髪を結ったり、念入りにお化粧をして、金糸の房飾りのある黒のヴェルヴェットのスーツ(ギ・ラロッシュです)や黒のタイシルクのドレスで、シュターツ・オーパーに出掛けます。

壮麗な階段を、エスコートなしに上っていくのは多少気後れがしますが、旅行者ゆえ大目に見てもらいましょう。係りの女性に席まで案内してもらい(桟敷かストールです)、プログラムを手にイタリア産の大理石が美しいバーコーナーでゼクト(シャンパンなどのスパークリングワイン)を頂きながら摘むカナッペが夕食のかわりです。
オペラバッグの中にはオペラグラス(白蝶貝と金鍍金の優雅な品です)と大好きなグラスフルーツが入っています。合図の鐘が鳴れば、席に戻ってオペラの鑑賞が始まります・・。

と、ここまでの楽しい「日課」は、前半中は全く気ままな独りだったのですが、日程後半から「お友達」というのか「連れ」が出来てしまいました。
あの、ネクタイを差し上げた「元生物学教授」です。
この方もお一人で参加され、モーツアルトがお好きだそうで、毎晩というわけではないのですが、やはりオペラ劇場にやってきます。そしてバーコーナーで出会うと嬉しそうに側にお出でになって、一頻りお話しに興じると、また幕間にと約束されて、その後、では帰りもご一緒にということに。
ご年配のとても礼儀正しい紳士ですし、気に入って下さったのは光栄で、エスコートも有りがたかったのですが、独りきりの気楽さが気に入っていたので、少々持て余し気味に感じてしまい、罰が当たりそう、とその時思いました。

さて、ウイ―ン滞在も残り二日を数えるほどになりました。
二人連の先生と昼食を取り(その後しばしばお誘いがかかるのでした)、お別れしたあと、市電(路面電車です)を乗り継いでいつものお店でお買い物を済ませ、ホテルに戻ると、女子学生のグループがロビーに集まっていました。
目が合ったので会釈をし、エレベーターホールに行こうとすると、そのうちの一人の女性が話しかけてきました。
聞けば、マリが買い物をしたお店の袋を見て、どこにあるのか教えて欲しいと言うのです(当時「ブランド品」を扱うお店はここ以外余りありませんでした)。
マリは勿論、地図まで書いて教えてあげました。彼女等はひどく嬉しそうに何度もお礼を言うので、こちらが少し恥ずかしくなってしまいました。

その晩の観劇から何故か皆で和気藹々という雰囲気になり(もしかするとマリ以外は、以前からそうだったのかもしれませんが)ひねくれ者のマリは何となく気味が悪いような、釈然としないよう気分だったのですが、『仲良き事は云々・・』と申しますので(特に彼の「野々村」氏は大喜びでした)まあ、いいとしましょう。
しかし、恒例の解散前の「住所交換」だけは勘弁して頂きましたけれど(「元生物学教授」殿も、次は何時、何処にご旅行されるのか教えて下さいと、熱心にお尋ねでしたが、それも勘弁して頂きました)。


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