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日本画の先生の作品「千手観音像」です。1998年製作(個人蔵) 木曜日は、昨日の気温より十度以上低い真冬の寒さで、前日の中秋の暖かさとは裏腹な空気に悩まされた一日でした。今日も今日とて(笑)、助手としての仕事の為、鉄道で茅ヶ崎の先生のアトリエに向かいます。十二月の最初の所為か、何時もは空いている車両は、旅行帰りのご婦人方や、試験中の若者、就業中のネクタイ、スーツ姿の殿方で比較的混んでいて、前日の軽装とは違い、マフラーや外套で膨れており、これから迎える季節を物語っておりました。 マリはこの数年、駅から徒歩四十分掛けて先生のアトリエに、お天気さえ良ければ歩いて伺います。古い民家や新しい家屋が斑に並ぶ道筋の、庭先の季節の花々を愛でながら行くと、案外早いもので、気が付くとランドマークのスーパーマーケットが見え、遣り過ごしますとご自宅兼アトリエの戸口で何時も通り先生が、にこやかに迎えて下さいます。 マリの師匠である日本画の先生は、現在五十代半ば、既婚ですが現在はお独りで、二匹の猫と暮らしております。俳優の山本学氏を幾らか若くした優しい風情の方ですが、作家らしい気骨があり、舌鋒鋭く、マリと共通の知人で、県会議員のI氏も脱帽の論客ですが、常日頃面白い文言で、作業に集中しているマリの緊張を強制的(?)に解す程の愉快な方です。 現在のお仕事は、某寺院からの依頼で、新しく建立するお堂にお奉りする、お不動様のブロンズ仕立ての坐像に、彩色を施すと言うことで、珍しい依頼では有りますが、先生は、彫刻家とのコラボレーションは何度も経験が有りますので、今回も淡々と製作を行っております。 漆を塗布したブロンズ製の櫓状の台座や、矜羯羅童子に彩色する為のドーサ(膠と明礬の混合液)を施します。勿論注意は必要なのですが所謂「単純作業」なので、テレビやDVDを見ながら談笑しつつ作業を進める事が多いのですが、単純作業と言いながら矢張り中々難しく、金箔の上に溜りや刷毛目を残さず均一に塗るのは、先生の助手となって、五年以上は経つマリに取りましても、簡単な作業ではありません。 マリが先生の助手としてお手伝いを始める以前は、単なる教え子で、先生は嘗て、美術予備校や専門学校の教員、私塾などで教えていらしていたので、「教え子」は数え切れない程存在するのですが、「助手」及び「弟子」はマリ一人でして、最近は多少の不安も覚えます。 先生の教え子となった切っ掛けは、社会人向けの音楽サークルで知人の先生に、日本画の教えを乞うた事に始まります。最初は当時開かれていた私塾の扉を敲くつもりでしたが、「貴方には役不足でしょう。」との有難いお言葉で個人指導の栄誉を得まして、今日に至ります。 確かにマリは、絵画好きの父の影響で、幼少期より洋画を習っておりましたが、デッサンなどの基礎は兎も角、画材から技法など、何から何まで違いますので、只一所懸命先生の教えに従い精進して参りました。その結果、助手としてお仕事のお手伝いをさせて頂けるようになりましたが、マリとしましては、先生の高い技術と、美術に対する深い意識と見識を、お若い方々に受け継いで頂きたいのです。先生は花鳥画及び仏画などの日本画製作だけでなく、保存修復の知識と技能も大学院で習得され、今までも貴重な仏像や神像、美術品を修復されておりますので、マリ一人だけでは到底背負いきれませんし、惜しい気がするのです。 思いを募らせ、僭越ながら何度か進言致しましたが、その度に微笑まれながら「そうだね。考えなければね。」と仰るばかりで、マリにはもうこれ以上、何か申し上げる事は出来ません。勿論、先生の事ですから、きっとお考えがあるのでしょう。兎に角マリは暫くは、唯一の弟子として助手として頑張らざるを得ませんね。 この土日は、片付けなど家の事を済ませ、月曜日には元気良く、晴れたら徒歩で、先生と猫達の待つアトリエに参りましょうか(笑)。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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