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カテゴリ:新MdQ更新記録
●7時 ポリツェルッツェンへ
──襲撃と疑問── 例えばの話。 どことも知れぬ島の只中、小さな小さな森の奥に、こじんまりとした一つの家があったとする。 その家の中央には古めかしい木彫りの机があり、その脇には小さな椅子が二つあるとしよう。そして椅子の上には二つの人影がある。 一つの影は教師であり、一つの影は教え子だ。 二人は机を挟んで向かい合い、一人は深く椅子に腰掛けて、一人は気難しげに首を傾げている。 「……先生」 首を傾げていた影がもう一つの影に呼びかけると、どこかだらしなく背凭れに身を預けていた影が小さく動く。 「なぁに」 「このお話には、何の意味があるのでしょう? 本当にただの教訓話でしかないのですか?」 本来なら教訓話ですら無いというのを責めているかのような口調に、先生と呼びかけられた影はくすりと笑う。 「始めにそういった筈だけど。ただの教訓話だって」 「……先生のことですから、もっと別の何かが話の裏にあるものだと思っていたのですが。本当に、それだけなんですが」 「何? 嘘言ってるとでも思ってた?」 「…………」 「本気で泣きそうになってる?」 小柄な影が反射的に動き、だん、と木彫りの机を強い調子で叩く。だが、もう一人の影はその動きを面白そうに眺め、声をあげて笑うだけだ。 「くくっ──まぁ、今はまだね。もう少ししたら、貴女にも判るような話になるから」 その言葉に、立ち上がっていた影の動きが止まる。 「私が、ですか?」 「そ。聞いてて損な話じゃないから。今日のところはお勉強は我慢なさい」 「……『今日のところは』って、一日掛かるんですかその話」 暫し無言。 「で、次は『旨い話には裏がある。痛い目見たくなかったら、迂闊に話に乗るのは止めましょう』って話。正に教訓話ね」 「何だか俗っぽいです」 「実際、俗世の話なんだから仕方ないでしょ。……じゃ、続き行くよ。その時、名も無き冒険者は──」 ・ 夜。 眼前にようやく村の姿が見え始め、詰めていた息を抜きかけたシャイラ達は、村へと続く道上に、敵意を帯びた複数の人影を認めた。武器に手をかけつつ、シャイラ達は警戒するように立ち止まる。 「何用かな」 一歩前に進み出て問うたオリオールの言葉を無視し、その影達は素早く散開。一瞬にしてシャイラ達を取り囲むように動き、徐々に包囲を狭めてくる。 夜の闇に紛れ、その正体は一目では判らないが、彼らの素早く隙の無い動きは、明らかに真っ当な訓練を受けた者のそれだった。 「交渉する気など毛頭なし、か。何とも物騒な賊だね」 彼らの動きを呆れたように眺め、オリオールは嘆息しつつ言葉を継ぐ。 「でも、動きで判るよ。──軍の者だろう、君達は」 オリオールの褪めた声が一瞬だけ彼らの動きを止める。 「どこの家の連中かは知らないが、今は君達に構っている余裕は無いんだけどね。お引取り願えないか」 問いに、影の集団から一つが進み出る。 「申し訳ありませんが──こちらにも立場というものがございますので」 影から響くのは慇懃な拒絶。その態度からも、相手が山賊などとは根本的に異なる者達であることが容易に知れた。 その返答にオリオールは参ったとばかりに頭に手をやり、苦笑。 「……やはり、駐屯地で身分を明かしたのは迂闊だったかな」 苦々しげに呻くオリオールを見やり、シャイラは密かに溜息をつく。護衛を頼むくらいだから、誰かに狙われているのだろうという程度の予想はしていたが、こういう相手が出てくるのは想像の外にあった。正規とは異なるといえ、軍の集団と事を構えるというのは、あまり楽しい話ではない。 「まぁ、通してくれぬというならば、無理に進むしかないわけだけど」 オリオールは話は終わりとばかりに言い捨てて、腰の後ろに撒きつけた鞘から厚みのある小剣を引き抜いた。そして、背後に立つシャイラへと視線だけで振り返る。 「シャイラ君、正面から包囲を突破する。村まで行けば向こうも手を出せまい。──準備は良いか?」 愚問だった。当の昔にシャイラは戦闘体勢へと移行している。それを確認したオリオールは、視線を前へ──村の方向へと移す。 「よし……では、行こうか」 ------------------------------------------------------------------------- vs 夜の襲撃者 ------------------------------------------------------------------------- アルセマスリーダー 120/120 アルセマスシーカーA 80/80 アルセマスシーカーB 80/80 ------------------------------------------------------------------------- サイザムスピアを手に入れた。 「いやはや、何とか助かったね」 台詞とは裏腹な「助かって当然」といった調子で呟くオリオールに、シャイラは返答する余力も無く、小さく頷くだけ。 包囲網の一角を破ることに成功したシャイラ達は、その穴を突いて包囲を脱し、何とか村の中へと逃げ込むことに成功した。 村の中へと飛び込んでしまえば、もう先刻の一団が追ってくることは無かった。村の広場まで無我夢中で駆け抜けた後、荒く息を吐いて乱れた呼吸を整える。 (しかし、何だってあんな連中に──) 襲われねばならぬのか、と問い質すようにオリオールを見れば、彼は、自身が持っていた背嚢を地面に下ろし、苦々しい表情でそれを眺めていた。 (なん、だ?) ──と、シャイラの視線に気づき、オリオールが慌てたように顔を上げて、地面に降ろしていた背嚢を担ぎ直した。 「とにかく、流石に疲れた。今日はもう休むことにしよう。宿の部屋が空いていてくれれば良いけど、どうだろうね」 オリオールは取り繕うようにそう言って、歩き出す。 「…………」 夜の広場を歩いていくオリオール。シャイラは、彼の背中で揺れる妙に縦長の背嚢を無言のまま眺め──小さく溜息をついたあと、疲れの滲んだ足取りで彼の後を追った。 50ポイントの経験値を得た。 ──End of Scene── お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2012.04.14 22:12:02
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