物差しを片手に、歩いて回った。
驚いた事に、物差しは変幻自在で、延びたり縮んだり歪んだりした。
それだけじゃない。じっとしている事ができないようで、あっちこっち勝手に動き回った。動き回った挙句の果てに、怖い怖いと震え出す始末。
そんな様子を見ていて、この物差しは全く役に立ちそうもないな、と悟った。もう随分昔の事だ。
芯のない鉛筆の方がまだ幾分かましに思えた。そして実際、そうだった。
これはそんな物差しの話。
そう、僕の株式投資の話だ。
退屈だろうが我慢して欲しい。僕だって、眠りそうになるほど退屈なのを我慢して書いているんだ。
僕が大事に持っていたその物差しは、黄ばんでいて、汚らしかった。
下の方に大きく『PBR』と書いてあった。
その物差しは使い勝手が良かったが、測ってみたら汚れてしまうという欠点があった。
別に株なんて汚れても構わないと思っていたけど、気が付いたら淀んでいたのは僕の眼の方だった。
という事で、別の物差しに変えた。
僕が大事に持っていたその物差しは、曇っていて、見え難かった。
下の方に大きく『PER』と書いてあった。
その物差しは予想していた通り使い勝手は悪くなかったが、測ってみたら霞んでしまうという欠点があった。
別に株なんて霞んでも構わないと思っていたけど、気が付いたら濁っていたのは僕の眼の方だった。
という事で、別の物差しに変えた。
僕が大事に持っていたその物差しは、変形していて、使い難そうだった。
下の方に大きく『ROE』と書いてあった。
その物差しは驚くほど使い勝手が悪く、測る度に曲がってしまうという欠点があった。
別に株なんて曲がっても構わないと思っていたけど、気が付いたら歪んでいたのは僕の眼の方だった。
なるほど、この世は世知辛い。
もうたくさんだ、と釣竿片手に旅に出た。
行き先決めずに悩んだ挙句。山は嫌だと海にした。
変幻自在の尺度をもとに、釣った魚を計りけり。
雷鳴れども落雷は無し。
そうと分かれば、怖くない。
嵐だって、他人事。
藻屑に飲まれる人観て笑い。
暫くしてからまた笑い。
いつの間にか日は沈み。月の光も届かない。
助けを呼ぼうと叫んでみても、真っ暗闇に掻き消され。
荒れ狂う波。波。波。
手作りボートが波揺られ。酔った挙句に吐く始末。
助けを呼ぼうと叫んでも、真っ暗闇に消えていく。
なるほど、この世は世知辛い。
穴開きポッケを弄って、やっと出てきたこの定規。
やっと見つけた宝物。やっと分かった宝物。
念仏唱えて測ってみれば、二束三文、雀の涙。
やっぱり山にするべきだった。
神を呪いしこの境遇。幾ら呪えどまだ足りぬ。
悪態吐くども吐き足りぬ。
体の震えが収まる頃に、荒波消え行く地平線。
北へ南へ東へ西へ。見渡す限りに何も無し。
頼れるものは何も無い。何度思った事だろう。
定規片手になんのその。また来る嵐は何処からか。
問う相手もいないまま、大海原を突き進む。
進んでいるのかいないのか。
定規の他に何もなく。定規が何の役に立つ。
問う相手もいないまま、大海原を突き進む。
進んでいるのかいないのか。
定規の他に何望む。何がお前の役に立つ。
問う相手もいないまま、大海原を突き進む。
進んでいるのかいないのか。
やっぱり山にするべきだった。
何をするにも相手も居らず。
笑い話はもう沢山と、自ら掲げたこの拳。
責めて誰かの役立てば。気合を込めて振り下ろす。
下ろした先に水はなく、蝋燭ばかりが並んでる。
幾ら違うと叫んでみても、訂正される訳でなし。
寝ても覚めても解釈できず。匙を投げたり見えざる手。
定規がお前の役に立つ。定規はお前そのものだから。
神に唾棄するその姿、満身創痍の青息吐息。
傍から見ても勝ち目はないが、己が信念曲げられぬ。
ここは愚者の楽園か。はたまた賢者の修行場か。
踊る阿呆に見る阿呆。
寄ってらっしゃい見てらっしゃい。ここは鉄火場一丁目。
弥が上にも高まる期待に、一念発起の先は闇。
鬼も十八番茶も出花。思いもよらぬ舌先三寸。
寸暇を惜しんで責任転嫁。極悪非道の独壇場。
知らぬが仏と言うなかれ。
せめてこう言え豚に真珠。
幾ら定規を眺めてみても、淀み濁って歪んだ眼。
昔は見えた尺度の目盛、確かに見えた尺度の目盛。
もう良い、もう良い、もう沢山だ。
下手な考え休むに似たり。
どうせ次々人は来る。僕も昔はその一人。僕が貴方で貴方が僕で。
踊る阿呆に見る阿呆。
寄ってらっしゃい見てらっしゃい。ここは鉄火場一丁目。
弥が上にも高まる期待に、一念発起の先は闇。
鬼も十八番茶も出花。思いもよらぬ舌先三寸。
寸暇を惜しんで責任転嫁。極悪非道の独壇場。