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The world's end -Arim Lab log

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2005.08.23
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カテゴリ:SS用ネタ
空は妙に青々と底無しに澄んで、風がカサカサと吹き抜けた。
誰もいない遊園地。
それでも遊具は動いている。
楽しげな電子音のメロディーも止まらない。
それから、人々の笑い声も。
 
誰もいないはず、誰もいないはずなのに声は聞こえてくる。
子供大人、男の子女の子、父親母親。
遊園地が廃墟と化す前の、かつてのざわめきだ。

モノレールから降りて少女は呟いた。


「何処なのここは」


いつのまにか一緒にいた小さな女の子は消えている。
少女は途方に暮れ、暫くこの奇妙な遊園地をどうしたものかと眺めていた。しかし、期待に反して何も変わったことが起きる気配はない。
彼女は仕方なくふらふらと歩き出した。
そこには時代に置き去りにされた遊具があった。
ミラーハウスにビックリハウス。
ふと、少女はミラーハウスに人影を見つけた。

「まって」

人影は驚いたように立ち止まり、彼女の方へやってきた。


「君はどうやってここに」
「電車に乗ってきたの」
「あのモノレールのこと」
「そう」
「僕もだ」


二人ともあのモノレールに乗って此処に来たようだった。
しかし彼女と彼の言うことはまるで噛み合わず、全く違う電車に乗ってきたみたいだった。
不意に声がした。

「それはおかしなことおかしなこと。言うことがそんなにも違うとは」

いつの間にか二人は観覧車乗り場の前にいた。

「さっきまで観覧車なんてなかったよね」
「確かになかった」

目をぱちくりさせる彼らをよそに、突然現れた道化師は口を閉じようとはしない。


「ようこそ、この哀れな遊園地へ。放置されてもう幾年、ある字はもう現れません。あとは朽ち果てて行くだけのこの場所。久し振りのお客様、どうぞごゆっくりお過ごし下さいませ。あなたたちはとても幸運ですよ」
「何故」
「この遊園地が世界と繋がるのは、もう一年中でこの一日しかないんですよ」


道化師は紳士らしく恭しいお辞儀をした。
袖口からのぞく白いレースがひらひらと揺れる。


「お客様は今日がどういった日かご存知ですか」
「知らないわ」
「万聖節前夜ですよ」
「万聖節前夜?ハロウィンのこと」
「そうです。一年のうちで一番魔力の高められる日」
「それと何の関係が」

少女のその問いに道化師は赤い口の端を吊り上げた。

「わたしたちは今日だけ、こうしてお会いすることができるのです」
「よくわからないけど、多分、私たちは迷い込んだのね」
「ええ、全くそのとおり」
 

少年と少女は顔を見合わせた。
それを黒い服の道化師は影法師のようにすんなり立って楽しそうにみていた。

「どうすればいいんだろう」
「帰れないのかしら」
「ですから、どうぞ今日一日はここでお楽しみ下さい」

道化師は帽子を取って両手を広げた。
そのまま帽子を胸にあて、白い化粧の下から目を覗かせている。


「今日一日しかわたくしどもの命はないも同然です」
「そう言われても」
「ほら、他のお客様もおいでになりました」

二人が白い手袋の指がさす方を振り返ると、先程までは人影なんてなかったのにいつのまにか辺りは人で溢れている。

「どういうこと」

少女の問いに答えず、道化師はいたずらをする子供のような笑みを浮かべている。
そして指を一本立てて、宙に円を描いてみせるのだった。
紫色の軌跡が一瞬見えた。

「魔法ですよ」

少女にはそう聞こえた。

「さあ、行きましょう」
「どこへ」
「メリーゴーランドです」
「私たちに乗れと」
「ええ、楽しい旅が待っていますよ。モノレールよりも楽しい旅が」
「帰って来られるんだろうね」
「もちろん。メリーゴーランドは止まるでしょう。あなた方が望めば」

また道化師は意味有り気に微笑んだ。

「さあ、急いでください」

急かされるままにメリーゴーランドに乗り、出発の合図を待つ。
人々でメリーゴーランドは溢れていた。


「何が起こるんだろうね」
「全くわからないわ」


そして、出発の合図。
ゆっくりゆっくりと木馬は上下に揺れ、回転を始める。
ゆっくりゆっくりと、早くなってゆく。

眩暈がしそうだった。
ぐるぐるぐるぐると、木馬は目まぐるしく回る。
あまりに早くて息が出来ない。
気を失いそうだ、と少女は思った。
そのとき視界の端に道化師を捉えた。
彼は彼女に気付いているのか、やっぱり指を立てて宙に円を描くのだった。また、同じように紫の光が指先に宿っている。
星雲のようだ。
ぼんやり考える彼女の頭に道化師の声がはっきりと聞こえた。


「魔法ですよ」


道化師は帽子を取って深くおじぎをした。





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最終更新日  2005.08.23 22:30:55
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