テーマ:ショートショート。(573)
カテゴリ:SS用ネタ
望んだのか、望まなかったのか、よくわからないまま世界は音を立てて崩れ、一瞬にして色彩は剥がれ落ちた。
後に残ったのはモノクロの誰もいない世界だった。 行く当てが無いのは定かだったので、少女は途方にくれてしまった。 それでも此処ではないどこかへ行かなくてはという強迫観念から、少女は諦念と共に歩き始めた。 風は汚染物質を運び撒き散らし、建築物の残骸が砂の様にさらさらと崩れていく。 荒んだ大地に散らばる瓦礫を乗り越え、灰色の雨に濡れながら、随分と長い時間彷徨い歩き、辿り着いたのは廃墟。疲れ果てた少女にはまるで、魔法の扉の様に思えた。 「この先にはきっときれいな世界が広がっているんだ。」 これは、夢。 少女はそう信じ込もうとし、夢から覚めるべくして傾いた廃墟の重く冷たい扉に手をかけた。 足を踏み入れる。 刹那、世界は揺らぎ、渦を描いて少女を飲み込んだ。 それは禁断の地への入り口。そこは絶対不可侵領域だった。 体を強かに打った少女が呻きながら顔を上げると、目の前に白い髪と赤い目を持ち、少女の形をした機械がいた。 機械は少女を覗き込みながら、何をするでもなくじっと見詰めているのだった。 「どこへ行けばいいの。」 「…最早、あなたには安息の地など無い。」 無慈悲な声で、機械は機械らしく答えた。 そうして、続ける。 「あなたは虚無と同じものになったのですよ。」 これが、少女の旅の始まりだった。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2005.11.29 20:53:45
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