プロローグ
また、夜がきた。
僕は重い体を起こして起き上がる。
もう何度めだろうか。この夢を見るのは。
暗い空、ひび割れの向こうの虹彩、不自然な色彩の世界が広がっている。僕は、夢の中の少女を知らない。それは確かなのだが、こう何度も同じ夢を見ると知っているような気分になる。
扉を開く瞬間、少女は微かに目を見開く。その瞳の色は、不吉な血の色だ。
思わず溜め息を吐いた。この夢を見ると、もう今夜は眠れないとわかっている。眠ろうと努力しても、それを阻むように瞼の裏には鮮明に不気味な色の空が広がり、その下に立つ制服姿の少女の後姿が見えるのだ。世界の終わりのように、がらんとした虚ろな風景。赤が目に沁みる、モノクロームの風景。一体何を表しているのだろうか。
そしていつのまにか聴こえてくる、歌。
無音の夢の中で、小波のように僕の耳に囁く。子守唄のようにおだやかで、悲哀に満ちた静かな歌。それを歌っているのは、少女なのかどうか定かではない。
彼女の歌声の虚ろな響きが、耳から離れない。
それは、見えない世界の境界を越えて今日も僕のもとへとやってくる。