妊娠と甲状腺ホルモン妊娠と甲状腺ホルモン甲状腺ホルモンは妊娠と深く係わり合いのあるホルモンです。 また甲状腺の疾患は、若い女性に多い病気で、女性には頻度も高く(2~3%)、 私たち産婦人科医も遭遇することの多い病気です。 甲状腺は首の前、のどぼとけのすぐ下にあります。 正面から見ると蝶の形に似ています。 甲状腺ホルモン(T3、T4)という体に必要不可欠なホルモンを造ります。 <甲状腺ホルモンの働き> ※細胞の新陳代謝を盛んにします ※交感神経を刺激します ※成長や発達を促進します ですから子どもが成長するのになくてはならないホルモンです <甲状腺の病気> 甲状腺機能亢進症:甲状腺ホルモンが多過ぎる時(バセドウ病、甲状腺炎など) 甲状腺機能低下症:甲状腺ホルモンが不足する時(橋本病、甲状腺炎、海草のとりすぎ、甲状腺の手術後) 産婦人科でよく問題になるのは、甲状腺機能低下症は流産の原因になることもあり、 また最近の外国の文献では、母体の甲状腺機能低下症は子供の知能に影響するという論文もあります。 産褥うつ病の原因になることもあります。 妊娠中の甲状腺の障害は、一般妊婦の5%に起こると考えられており、妊婦さん全員にスクリーニング検査を行うべきであると提唱されています。 大阪の病院に勤務していたときに、院長は甲状腺疾患の専門医網野信行先生(元大阪大学教授)の指導を受ける機会に恵まれました。 このような事情から、当院では妊娠初期の検査にマイクロゾームテストとTSHを検査しています。 患者さまから、この甲状腺ホルモンについて質問を受けたので、このページを作成しました。 【甲状腺ホルモン】 まず甲状腺ホルモンについてですが、甲状腺ホルモンは、甲状腺の濾胞細胞と呼ばれる場所でヨードを原料に作られます。そして、濾胞細胞では、サイロキシン(T4)とトリヨードサイロニン(T3)と呼ばれる2種類の甲状腺ホルモンが作られます。T4は貯蔵型ホルモン、T3は活動型ホルモンとも呼ばれ、働きはT3のほうがT4より強いと言われています。 血液中の甲状腺ホルモンT4とT3は、そのほとんどが甲状腺ホルモン結合蛋白と呼ばれるタンパク質と結合した状態で血液中を流れています。そして、そのごく一部が遊離型ホルモン(FT4、FT3)として、活性型甲状腺ホルモンとなり全身で作用します。 【妊娠と甲状腺ホルモン】 (1)妊娠すると甲状腺ホルモン結合蛋白との結合性が亢進するので →T4結合蛋白が増加 →T4/T4結合蛋白比が減少 →その結果FT4、FT3が減少します 同じようには減少せずFT4が減少することが多いのでFT3/FT4比は上昇する (2)ついで妊娠するとヒト絨毛性ゴナドトロピン(hCG)というホルモンが出てきます。 尿で行う妊娠検査薬はこのhCGをチェックするものです。 正常な妊娠では、早ければ妊娠後の7日目に血清中で検出されますが、尿検査に反応が出るのは妊娠4週頃(予定の生理が始まる頃)です。 このhCG濃度は、妊娠後10-12週経頃ピークに達し、16週頃に低下します。 hCGは甲状腺刺激ホルモン(TSH)と構造がよく似ています。 そのため甲状腺を刺激します。その結果、このhCGの分泌に反比例して甲状腺刺激ホルモン(TSH)が減少します。そして胎盤が完成する妊娠16週頃に正常値に戻ります。 (3)妊娠中期になるとhCGが低下し、TSHも元に戻ります。 (4)妊娠中はサイログロブリンが増加し、特に妊娠後期には増加してきます。 サイログロブリンとは、血中に分泌される甲状腺ホルモン(T4=サイロキシン)の直前の物質です。甲状腺組織の中で合成され大量に貯蔵されています。 正常の状態では血液中にはほとんど出ていきません。 甲状腺に病気が出現した時に血液のサイログロブリン値が高い値を示します。 ●妊娠初期には甲状腺機能が亢進することがあります 妊娠初期のhCGがたくさん出る時期には、hCGがTSH]と似た構造をしているため甲状腺を刺激します。 一時的な機能異常ですので時期がくれば治まりますが、機能亢進の程度が強い時は治療が勧められます。 バセドウ病と見分けるのが難しいこともあります。 ●妊娠中の甲状腺機能の変化は複雑で完全にはまだ分かりません。 妊娠中は概して、甲状腺ホルモンが相対的に低下した状態になり、サイログロブリンが増加して、甲状腺が腫脹する(9%に過ぎませんが)ものと思われています。 【どんな人に発症するのでしょう】 つわりの強い人に多くみられ、 もともと甲状腺には全く異常がない人にも発症します。 ※当院では妊娠初期の検査にマイクロゾームテストとTSHを検査しています。TSHは通常妊娠初期には低下しますが、おおむね正常値を保つ人がほとんどです。 一部の方がTSHが低下したり(甲状腺機能亢進症)、TSHが上昇(甲状腺機能低下症)します。 【甲状腺機能亢進症と妊娠】 バセドウ病で甲状腺ホルモンが多い状態(甲状腺機能亢進症)が持続すると、流産、早産、妊娠中毒症の危険性が増すといわれています。 母体血液中の抗TSHリセプター抗体が高値の場合、 胎児、新生児に甲状腺機能亢進症がみられることがあります。 【甲状腺機能低下症と妊娠】 母体の甲状腺機能低下症は軽度であっても後々子供の知能の発育に 影響するという外国の論文があります。 →甲状腺機能低下症の研究に対する米国内分泌学会のコメント 甲状腺について知りたいなら、甲状腺専門の病院「隈病院」のHPに詳しいです。見てみましょう。 →甲状腺について →日本甲状腺学会には甲状腺疾患の診療ガイドラインがあります 妊娠可能年齢の女性にTPOスクリーニング検査が有用な可能性 【ENDO 2004: Abstract P2-473. Presented June 17, 2004.より】 【出産後の甲状腺機能異常】 出産後甲状腺機能異常症の頻度は全出産後婦人の5%、 若年女性のマイクロゾームテスト陽性率は7~8%と考えられます。 マイクロゾームテスト陽性の場合には潜在性自己免疫性甲状腺炎と考えて対処します。 普段は甲状腺機能に異常のない慢性甲状腺炎の患者様が出産後に甲状腺機能異常を示すというもので、下記の5つに分けられます。(73回日本内分泌学会 ランチョンセミナーより抜粋) 1)出産後3~6ヶ月に永続的なバセドウ病を発症する 2)出産後2~4ヶ月に一過性甲状腺機能中毒症をおこす 3)出産後1~3ヶ月に破壊性甲状腺中毒症を示し、その後一過性甲状腺機能低下症 4)出産後1~2ヶ月に破壊性甲状腺中毒症を示さずに一過性甲状腺機能低下症を示す 5)永続的甲状腺機能低下症 多くのものはバセドウ病か出産後甲状腺炎(一過性甲状腺中毒症、一過性甲状腺機能低下症)であると言ってよいでしょう。これらは一般妊婦の約5%に起こると言われています。妊婦さん全員にスクリーニング検査を行うべきであると提唱されています。 慢性甲状腺炎と診断されたことのある若い女性には、出産3ケ月後に甲状腺機能検査を受けることをお勧めします。妊娠中に生理的に抑制されていた免疫系が、出産後にその反動で亢進するために生じると考えられています。 ジャンル別一覧
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