2015/03/03(火)14:07
小沢蘆庵 そのかみのはらへに捨てし人かたはけふのひひなをうらやみぬべし
小沢蘆庵(おざわ・ろあん)
そのかみのはらへに捨てし人かたは
けふのひひなをうらやみぬべし
『六帖詠草拾遺』(江戸時代中期)
その昔、祓はらえとして流し捨てられた人形は
今日の大切に飾られる雛をきっとうらやんでいるのだろうなあ。
註
今に続く雛祭り(上巳の節句、桃の節句)の起源が流し雛の風習であり、雛が本来は災禍わざわいや穢けがれを憑依させて流す禊みそぎや祓いの神事の形代(かたしろ)で、「精霊しょうろう流し」などに類するものだったことはよく知られている。
流され捨てられた昔の人形が、この歌が詠まれた頃(江戸時代)から美々びびしく飾られるようになった雛人形を羨んでいるという、奇抜な発想が面白い。
そのかみ:(すっかり様変わりした今から見て)随分さかのぼった昔。
ぬべし:完了の助動詞「ぬ」の終止形に推量の助動詞「べし」がついたもので、陳述を確実にし強調する用法。きっと~だろう。確かに~だろう。cf.)正岡子規(俳句)「鶏頭の十四五本もありぬべし」。