滝に打たれる 小谷元彦展:幽体の知覚 森美術館
大倉集古館で「煌めきの近代~美術からみたその時代」展を、泉屋博古館分館で「中国青銅鏡展」を観てから、歩いて六本木ヒルズへ。森美術館で小谷元彦展:幽体の知覚 を開催してる。小谷元彦(おだにもとひこ)さんの作品は、ネオテニー・ジャパンや、メゾンエルメスフォーラムの「Hollow」小谷元彦 展で観てて、気になってた。小谷さんは1972年生まれの、かっこええお兄ちゃん。京都の三条河原町で育ったそうや。東京藝大在学中からの15年以上にわたる作品の総括のような展覧会。創作のベースは彫刻やけど、彫刻の概念そのものから考えてはるのでいろんな「刻む」「彫る」手法が使われ、空気、気配、感覚といった目に見えないものを可視化するような作品を手がけてはる。冒頭に「私たちの普段忘れている身体感覚に気づき、自身の内部にある幽(かそけ)きものに対して繊細なまなざしを向けるきっかけになることを願っている」という小谷さんのメッセージが書かれてた。展覧会のタイトル「幽体の知覚」とはそういう意味やし、英文タイトルの「Phantom Limb」は「幻影肢」、つまり事故や病気などで手や足などの一部を失った人が、手や足がそこにあるかのように痛みやかゆみを感じる現象のこと。最初の作品は、「ファントム・リム」という白い服の少女の5枚組の写真やった。少女の掌はラズベリーの果実のような汁で真っ赤に染まってる。キリストの傷のようにも見えるけど、子どものころは楽しんだぐちゃぐちゃにする感覚の喪失を伝えてるようでもある。木彫の木材は「木の死体」であるから、動物の死体である剥製はそれと同様のことと考えた作品が次に並ぶ。「エレクトロ(バンビ)」では、仔鹿の剥製の4本の脚に金属の拘束具でようなものがつけられてて、痛々しい。「ダブル・エッジド・オヴ・ソウト(ドレス02)」は両刃の思いという髪の彫刻。髪の毛を編みこんで作ったロングドレス。髪に編むという行為が合わさって、執念を感じる。「フィンガーシュパンナー」は19世紀に実在した、ピアニストの指を反らせて開かせる矯正具のこと。シューマンも使って指を痛めたらしい。ストラディヴァリウスのヴァイオリンをイメージして美しく作られてる。「ヒューマンレッスン(ドレス01)」は、ネオテニー・ジャパンで展示されてた作品。狼に育てられた少女アマラとカマラから着想を得たという、2匹の狼の毛皮を使うたドレス。「ダイイング・スレイブ:ステラ」は、ミケランジェロの「瀕死の奴隷」と同じ題名の作品。ホネ貝の形態はどうやってできるのかって思ったのがきっかけやったそうや。無数の蝋の突起が生えた巨大な髑髏(どくろ)が、ゆっくり回り続けている。遠心力が関係してるんやないかと考えて、蝋を少しずつ垂らしながら回転させていったそうや。「スケルトン」は、白いFRP(強化プラスチック)で作った鍾乳石のような彫刻。重力の法則に従って物質の表面が崩れ落下し「骨化」していくさまを彫刻として表現したものなんやそうや。時の力を感じる。床に映った3つの影も印象的やった。「ラッフル(ドレス04)」は、巨大な木製のスカートのような美しくも残酷な拷問道具。これを装着された人は、さざ波を立てながら海を漂流し続けることになる。一番インパクトを受けたのは次の部屋にある作品「インフェルノ」。滝という圧倒的な自然現象に象徴されるような「制御できないモンスター性」を彫刻することこそ、具象彫刻の本質やと小谷さんは考えたそうや。薄暗い部屋の真ん中に八角形の小部屋が作られてる。入れる人数か限られてるので、行列ができてた。靴を脱いで中に入ると、床と天井にミラーが張られてて、8面の壁がスクリーンになってる。ハイビジョンで流されているのは、轟音を立てて流れ落ちる滝の映像。そのスピードを変えたり、逆回ししたりしてるので、中にいると時間や空間の感覚があやふやになってくる。この映像彫刻では、時間や運動までをまるで粘土のように扱ってしもてる。実際に滝に打たれる続けると、こんな感覚になってくるんとちゃうかなあ。このビデオ売り出してくれへんかなあ。次の部屋には、骨を繋ぎ合わせたような作品が並んでる。「SP1: ビギニング(セットA・B)」は、溶岩のような表面。桜の木に動物の骨の断面を彫刻し、表面を漆で仕上げてある。SP(Sculpture Project/彫刻プロジェクト)1シリーズは、彫刻における皮膚や表面性がテーマやそうや。アルミ鋳造で胎児の産毛や皮膚を表した作品もあった。レリーフが厚みを増し、3次元の立体へ変化する予兆を感じさせると説明に書かれてたけど、その通りやと思うた。SP2では運動を彫刻の中に取り込もうと、動物の移動していく時に描かれる軌道や自然現象のもつ流線型のフォルムを想像して形にしたそうや。次の部屋は映像作品。「ロンパース」は、2003年にヴェネチア・ビエンナーレで発表された3分弱のビデオで、ヘッドホンからはPIRAMIさんの音楽が流れてる。木の枝に座ってハミングするかわいいけどちょっと不気味な女の子が出てくるおとぎ話風の映像なんやけど、摂食、排泄、性的行為などの生理現象が想像され、生々しい。幼児期のリビドーをよみがえらせたいそうや。「SP extra レザーフェイス・イズ・スカルプター “ワールド・イズ・ビューティフル”」は、「悪魔のいけにえ」に登場する殺人鬼「レーザーフェイス」に扮した小谷さんが、おどろおどろしくチェーンソーで木を刻む映像。次の部屋は、最近の作品。「SP extra 人面石に就て」は、橋本平八の「石に就て(ついて)」に着想を得て、人の顔に見える石を木に彫刻してある。「SP4:ザ・スペクター ─全ての人の脳内で徘徊するもの」は、皇居外苑にある騎馬姿の楠正成銅像がモデルなんやけど、楠公も馬もやせ衰えて皮膚がはがれ、骨と筋肉をむき出しにした、スペクター(亡霊)になってる。仏像しかなかった日本に西洋彫刻が入ってきたために歪みが生じた日本の近代彫刻やアカデミズムについの批判というか、成仏させたいという思いがあったそうや。次は、エルメスにあったホロウシリーズ。身体に作用する重力、浮力、圧力などの物理的な力、心身が放出するエネルギーや気配など目に見えない力や存在、現象を可視化させようとしてる。れは、京都で育った小谷さんらしく不動明王の炎や、千手観音の手からのイメージがあるそうや。最後は、「No44」というビデオ作品。シャボン玉が壁にぶつかっては割れていく映像なんやけど、そのシャボン玉には小谷さん自身の血液が含まれてる。マーク・トウェインの最後の未完作「No.44, The Mysterious Stranger」からタイトルを取ったそうや。すごくおもしろい展覧会やった。これからの活躍が楽しみやけど、自分の体を彫刻したりはせんで欲しいなあ。2月27日まで開催。小谷元彦展:幽体の知覚その後、巡回する。静岡県立美術館:5月28日~7月10日高松市美術館:7月22日 ~9月4日熊本市現代美術館:9月17日~11月27日最後の「MAMプロジェクト」では、チェコの若手アーティスト、カテジナ・シェダーさんの作品「光がない」が展示されてた。 チェコ東部にある小さなノショヴィツェ村に誘致された外国資本の自動車工場(ヒュンダイ)の建設によって、村の人たちが分裂し、自然破壊ももたらされ、村が様変わりしてしまったらしい。会場では、いろんな円形のテーブルにドーナツ状の布をテーブルクロスのようにかけたものがいくつも展示されててて、一見カラフルで楽しそうに見える。真ん中の穴は工場の敷地を意味してるそうで、村人たちに、一人ひとりこの円の中に入ってもらい、工場から見えるであろう景色を想像して描いてもらったそうや。さらにその絵にカテジナさんが刺繍をしてる。丸いテーブルの裏側には、製作過程のドローイングや写真などが貼り付けられてる。チェコ語で口に出さないことを「テーブルの下で説明を一掃する」とする表現があって、「ヒュンダイ側もノショヴィツェ村の権力者たちも、なぜこの地での工場建設が許されたのかを語りたがらない」ことを表現してるそうや。こういうユーモラスなアートを利用した問題解決プロジェクトも、おもしろいなあ。作家:カテジナ・シェダーこの 作品 は クリエイティブ・コモンズ 表示 - 非営利 - 改変禁止 2.1 日本 ライセンスの下に提供されています。今日のラッキーくじは、どれもハズレやった。1日1回のクリックで、募金ができます♪