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雄二が留学のことを始めて裕子に打ち明けたのは、いつもの店だった。 いつものように駐車場は車が少なく、いつものように店は静まりか返っていた。 これといって特徴のないその店を、二人は時々利用していた。 少し太めのウェ-トレス、劇場のような大げさなカーテン、壁に掛かった古い 油絵、小さいペンダント照明、どれもこれも見なれた光景だった。 料理は薄い味付けで、裕子が好きなのは白い皿に品良く乗せられた一口 ケーキの幾つか、そして雄二は引き立てのエスプレッソの香りに癒された。 雄二はいつも静かに話した。 言葉の少ない雄二は、その大事な事さえ何時もの口調で話し始めた。 イギリスへの留学は5月だと言う。 もう桜の蕾が膨らみ始めているというのに。 そして裕子がキューピット役となった内田梨絵との恋もやはりほのぼのとし始め たばかりだったというのに・・・ 梨絵にはショールームでカーテンの打合わせをしていた際、こんなエピソードが あった。 「こちらはいかがですか?、壁紙にボーダーが入っておりますのでお似合いかと 思いますが?」 「ええ、綺麗ですねー・・」 奥さんがショールームではしゃぐ子供を追いかけて 席をたっていた時に御主人がこう言った。 「これは、お部屋に掛けるともっと映えるんです、綺麗ですよ」 「いいえ、あなたが綺麗!と言ったんです・・」 梨絵は言葉を捜そうとしたが、何事もスローテンポで穏やかな梨絵には無理 だった。 そんな梨絵の趣味がダイビングと聞いた時は、さすがに裕子も驚いた。 雄二が以前から将来の為に考えていた家具を中心とするインテリアの勉強に イギリスに行くという夢を叶える時が来た、と話す中に何故か雄二らしさを 感じるのだった。 そんな雄二の新鮮な空気と若さに触れ、裕子は心から夢を応援するよ!と にっこり微笑んだ。 そして白い皿のケーキを食べ始めた。 続く お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2006/05/08 09:42:44 PM
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