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シーズン 10 女達のファミレスデビュー その2 コレステロールは怖くない 「新入り」に興味深く向けられた視線を愛想良く笑顔で返した。 引きつっていたかもしれないものの、仕事の経験で得た笑顔の効果はたぶん あった。 彼女達はリーダー格と思われる派手なティーシャツに着替えた女性を 見た。 ダンスの後彼女はブランド物の眼鏡を掛けて得意げに皆をリードし ここにやって来た。 どの集合体にもリーダーは存在するものだ、と裕子は離れた席から彼女を 見ていた。 そして始まった語らい、というよりお喋りは裕子を圧倒させた。 たぶん一分間のワード数はかなりの物、ダンスの余力としては凄すぎる! このパワーは何! この元気溢れる源は何!? リーダーを中心に喋り捲り、交わされる言葉は宙でいったん交差して直ぐに散る。 裕子には別世界に見えるこの空間に興味を覚え、楽しいとさえ感じた。 話題の中心は、受験や就職を控える息子や娘達の自慢と愚痴、フリーターだの ニートだの、塾の紹介から結婚に話が飛ぶかと思えば、亭主のこづかい、はたまた 不倫、温泉旅行の企画と・・話は忙しい。 隣で一人コーヒーを飲みながら寛いでいる男性を意識する裕子。 (話が筒抜けだー) とても気が休まるはずはない。 聞いていて、息切れがしてくるのは裕子と隣の男性だけだろう。 そんな心配を他所に、アイスコーヒーの横にずらりと並んだ大きなケーキや 餡蜜。「クリームが少ない!」「あなたの方が餡が多い、」「寒天はダイエットに いい」と言いながら、彼女達は満足そうにそれらを口に運ぶ。 何という幸せな人達。 食べるか喋るか、どちらかにして欲しいと思いつつ、 裕子も弾みで頼んだチーズケーキを口に運んだ。 踊ってこれだけ食べても、これだけ大声で喋って笑えば新陳代謝が良くなり 贅肉と一緒にコレステロールもぶっ飛ぶのだろう。 久しぶりに良い気分に 浸っていた裕子に彼女は言った。 「香川さんは失礼だけど、結婚されてるの?」 来た!と思った。 「そうそう、生活感ないって言うか・・」 子供の話をしないからだと思った。 「・・いえ、皆さんと同じ主婦ですよ」 彼女達はその言葉を聞くと再び口を動かし食べ始めた。 返事をはぐらかす事は 不必要だが、空かさず話題を変えた。 「こういうのって楽しいですね!」 ありきたりの言葉だったが皆は乗ってきた。 「そうなのよ!」 「夜はレベルも高くて独身が多いのよ。 雰囲気が苦手」 「香川さんは夜も行ってらっしゃるのでしょう?」 なぜか彼女は知っていた。 裕子は空っぽの頷きをしながら、浅くも深くもない 賑わいのひと時を終え、自転車のぺタルを軽く踏みながらマンションに帰った。 一階のポストには雄二からの手紙があった。 程よい疲れを感じながら、手紙を手にした裕子はエレベーターに乗り込んだ。 汗がクラ-で冷えたらしい。 「早く、シャワーを浴びたい 」 続く お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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