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星の髪飾り

星の髪飾り

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2006/05/16
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 「お腹すいたねー」 

真麻が多希子の手をとって言うと、映画館を出てすっかり夜空が降って来た街に

不思議な時差を感じた多希子が応えた。

「うん、さっきの人達もごはんに帰ったようだでね」 

真麻は「さっきの人達?・・」と聞きながら、ひらひら垂れたのれんを潜った。

 
寿司屋のカウンターに少女がちょこんと顔を出すと、威勢の良い板前が

「よっ! お嬢ちゃん」と声をかけた。

真麻は茂郷の行き着けの店を避けたが、令菜の通夜に来ていた店の主人を見て

丁寧な挨拶を交わした後、隣の多希子をしみじみ見る主人と話始めた。

 
 多希子は小皿に並んだ卵の行列に海苔巻があるのを歓んだ。

「おいしい?」

「・・お、し、す、・・おいしい!」

「お寿司だにー。 お、し、す、・・じゃないにー」

 多希子は、真麻が見てきたばかりの映画の話を楽しそうにしながら、赤や黄色や

銀色の寿司をたくさん食べるのを感心してみていた。

「冷たいご飯は酸いねー・・」


 帰り道、ずっと何かを考えていた真麻が言った。

「おとうさんはね・・」

「・・・」多希子が顔を上に上げた。

「今日はお寿司を食べとらんでね。 お寿司を食べて来たって言わん方がいいで」

「うん、言わん・・」

すると多希子は思い出した契約を口にした。

「お、し、すの事は言わん代わりに、あの丸ーい輪っかを買わんとね?」

 店を出る時真麻が「お寿司は映画をおりこうで見ておった御褒美だでね」と言ったが

多希子にはお寿司がごほうびとは思えなかった。

ごほうびを口にしたことでフラフープを思い出させてしまっただけでは済まなかった。


 茂郷が茶の間にやって来た。

「楽しかった? タッコ?」

「うん、チャンバラ見た」

「・・チャンバラ? それは大人の映画だな。 おかあさん孝行したな・・」

真麻は苦笑いをしながらハンドバックを置いた。

「あのね、タッコは・・お、し、す、なんか食べとらんでね」


 少しの沈黙の後、真麻と茂郷は多希子を真ん中に、突然笑い出した。

「そうか、そうか! タッコはお寿司を食べてきたのかー!」

                 
               続く(18日 チンドンヤの通る道)





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最終更新日  2006/05/16 08:58:57 AM
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