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星の髪飾り

星の髪飾り

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2006/06/13
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                                 Photo by kitakitune05

 澄みきった大空、燦々と照らす太陽、どんより曇った空が割れて顔を出す太陽。

アルプスに撒き散らされた陽は、母を思う少女のエネルギーとなって反射する。


 遠慮なく轟く鶏の声で目を覚ました多希子は、心構えを済ませたランドセルを持った。

大谷家の真ん中を突き抜ける廊下は、黒く光っており、良子がせっせと拭いている。 

湯気の立つ台所では小さい体の冴が背筋を伸ばし、ザルを持って畑と鶏小屋に向かう

進二の後ろ姿もあった。 繰り返される大谷家の朝だった。


 多希子はいくらか緊張した面持ちで、良子と家を出た。

冴が縁側から手を振っている。

「おばあちゃん! 大丈夫だでねー・・行ってきまーす!」


 陽に光る木の葉が低い天井や高い天井をつくり、隙間を見つけて顔を出す太陽が

二人にスポットライトを当てるようと頑張る。 

川のせせらぎに沿って地面から現れた根っこの階段を登ると、もうそこは天国だった。


 裏山を抜けると、限りなく空に近い学校が見えていた。

「着いたー・・タッコの学校だー・・」

 校門で大きな桜の木が多希子を出迎えると、負けじと並ぶ銀杏の列が見えた。

何処からか聞こえる歌声が美しい。 音楽室がどこにあるのかキョロキョロしながら歩いた。

「見てみー、ここは小学校と中学校が渡り廊下で繋がっとるんだに」

 お粗末な屋根の下に、すのこが縦に並んだだけの廊下があった。

「あっちが中学だー・・校舎が威張っとるでね・・」

 校門の脇の高台に下がった木のブランコや滑り台を気にしながら、職員室に向かった。

あまりにも広い校庭に仰天した多希子は、黒い校舎にメリハリが付いた白い格子の窓辺で

足を止めた。 そしてまた外を見た。 

遥か彼方に鉄棒が段をつくってお行儀良く立っていた。 「凄い・・村の学校だー・・」


「福沢栄子先生・・」。 良子がそう言って担任になる福沢に深々と頭を下げた。

 多希子はふんわりとした笑顔とクルクルのパーマを見た。 やがて柔らかな手と握手を交し、

福沢の左右に動くお尻を見ながら、きしむ廊下を歩き出した。

 
 ガラガラと音を立てて扉が開くと、団子になった集団が慌てて散った。

「転校生を紹介します!」

 赤面した多希子を、背中の父が「ポン!」と押してくれた。

「林 多希子です。 よろしくお願いします・・」

 昨夜、布団の中で何度か繰り返した言葉だった。

「わー!!」 

「来たに! 来た! とうとう来た!」

「町の転校生だぞー」

 教室は再び騒ぎとなった。

坊主頭と坊ちゃん刈り、 おかっぱ頭と縄のような二本のおさげ・・たくさんの顔が

飛んだり跳ねたりし始めた。



「・・お友達になって下さい!!」


 予定のない言葉と多希子の凄味は、そのざわめきに止めを刺した。

                    続く (次回15日 「姫達のお出迎え」 )





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最終更新日  2006/06/13 01:58:57 PM
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