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星の髪飾り

星の髪飾り

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2006/08/11
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 過ぎ去ったものは、もはや再び帰らない。

時は悲しみの傷を癒し、やがて淡い色で染まる日が来るのだろうか・・

砂時計の一粒が細いくびれを通り抜けて落ちるように、たぶん瞬間の絶えまない

繰り返しによってしか時は過ぎてくれない。


 「風雅」は春を待ちながら寄り添う木々に見守られ、立ちすくんで見える。

真っ白な皿にわずかに残ったサンドイッチ、口紅のついたコーヒーカップ。

隣席の男達は観葉植物の間から、夜の街へ流れ込む女達を興味深く見ている。


「渚(なぎさ)ちゃん!? 明海(あけみ)さん、今夜は同伴?」

カウンターのサイホンの向こうでマスターがグラスを拭きながら声をかける。

「たぶんね!」 渚はきらきら光るビーズのバッグから煙草を取り出して火をつけた。

見慣れた光景だった。

 出勤前のホステスは「風雅」で軽食をとり、くつろぎ、気持ちを整える。

この時間帯には、紫音以外の店の者も来る。 店の隅に艶やかな華が座る。

時間と空間にオアシスを求めてやってくる男達を心ゆくまで楽しませる為に

あるいは満たす為に、華には華の暗躍の覚悟がなければならない。


 太陽に手を振りながらやがて星となって散っていく・・ひとつ、ふたつ、みっつ。

瞬きは思いの他、夜空からいくつも現われる。

どこにこんな煌星があったのか?・・・ひそんでいた「健気」。

それはまるで「私を見つけて!・・」とせがんでいるように、可愛く美しい。


 艶やかな唇、ろうそくのような白い肌、くっきり引かれたアイライン。

足を組替える度に、タイトスカートのスリットから覗く細い足。

 純子の出勤はいつも早い。

NO.1を維持する「意識」を、紫音を影で支える男達は知っている。

「純子ちゃん! おはよう。 さっそくだけど、今夜から新しい女の子出るから」

「そう。 面接、それとも引き抜き?」

「どっちでもない。 たぶん天からの贈り物だ、、支配人の賭け!」

「賭け? 素人なのね」

 マネージャーの日暮(ひぐらし)は、純子の素振りにほっとするとフロアーの真ん中を

足音も無い位身軽に歩いて行った。

「ねえ、名前は?・・」


 日暮は昨夜のことを思い出す。

色の無い月は静寂を、そっと水面に降りてきて生きる覚悟を決める。

 
「名前・・・ですか?」

「そう、名前。 明日からのあなた自身・・・」

 女は暫く俯いていた。

やがて女の人差し指が、しなやかに、つつましく、ゆっくりと動き始めた。

女がテーブルで文字を這わせながら言った。

「・・美・・・月・・・。 駄目ですか?」

「美月(みづき)・・・・美月だね?!」

 二人の男は互いに顔を見合わせながら大きく頷いた。 

クラブ「紫音」 美月。

                    続く(明日、風にふかれて....)
                         





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最終更新日  2006/08/11 06:06:10 AM
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