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星の髪飾り

星の髪飾り

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2006/08/27
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         photo by kitakitune05さん


 夜の不思議な光に誘われ、月が降りてくる。

いつか紫音の扉を開けた夕暮れ、とらえ難い姿、何かに噛り付きたかったのか・・

今は透き通った月と一緒に、僅かに軽い足取りで階段を降りることができる。


 3月15日

日暮が売上げ順に名前を呼ぶ。

純子、明海、日向、華連、揺香、渚、胡美、美月・・・・・・・

NO.1には給料とは別にピンクの封筒が渡される。 

「純子さん、今月もご苦労様!」 

冷ややかな拍手、毎月繰り返される光景に燃えたぎる意識とは裏腹の拍手が切ない。

美月は「わー!」と声を出したばかりに、なぜだか言い知れぬ空気の真ん中でしぼむ。


「支配人! 」 そう言って事務所に入る美月をいつもの笑顔で嘗め尽くす。

未だ薄い袋から17万8千円を取り出すと、10万を抜き、用意した白い封筒に入れて

言った。

「これ、お部屋代です。 お世話になりました」

「美月ちゃん! いいのに、、あの部屋は寮だと思ってくれて・・」

「来月には自分で部屋を探して出て行けると思います。 本当にお二人には感謝してます」

「・・・頑固だなあ。 生真面目だな、君はさ! ま、ご苦労さん!」

 事務室から出ると、静まり返ったフロアーの真ん中を更衣室に向かって歩き出す。

四方のミラーから別の自分が数人、変わりつつある美月を眺めていた。


 更衣室に入った。

何やら可笑しな空気が漂い、痛い視線が宙で交差して美月に刺さった。

「何なのよ! で、どうする気!」

明海と渚、純子と胡美、二つに割れた破片を何も感じていなかったわけではない。

それは早々に去った日向や華連、揺香が既に知るところ。 付随したヘルプが数人派閥を

大きくしている。 

母国の家族の為、暮らしを支える為に働く華たちは、もめごとから上手に逃げることを

身につけ、賢さと芯の強さを魅力に加える。 

「あなた! 何つったってるのよ! さっさと帰りなー!」

「・・・着替えないと。 これ純子さんのドレス・・」

 美月は渚の後ろをそうっと通り、ハンガーの列を探った。

「ドン!!」 テーブルを叩く音で振り向いた美月は今度は胡美の言葉にびくついた。

「いい根性してるじゃない! 同伴のルール知らなわけないよねえ、えっ!?

純子さんの客とぬけぬけと同伴でやって来る? あんたさあ、何なの? 寝たの?・・」

美月はドレスのファスナーを降ろす微かな音でさえ、この熱くなった空気に聞こえは

しないかと焦る。 だから汗が出て上手く脱げない。 ヒールにドレスを引っ掛けた。

「あんた、目障りなんだよ! 何やってんの! さっさと脱いだら・・?」

渚が傍にやってきた。 

「何このドレス、ナンバーワンに借りれば映えるとでも? いっぺん位指名とったからって

少しいい気になってる? 支配人に気に入られて、、そのうち食われるよ!」

ヘルプの数人が一斉に美月を睨んだ。

「何のことでしょう? 黒の一行様ですか? 日向さんの席に呼ばれて座っただけです」

「やめときな! 」 明海がアルコールに沈殿した渚の赤い顔めがけて言うと、風向きが

戻った。 純子が煙草の煙をふうーっと宙にむかって吐き出した。

「同伴のプロさん・・・ルール違反は今夜限りにしてね」

「あんたの指図は受けないよ。 客の気がこっちに向いただけよ。 なにか文句ある?

悔しかったら取り戻してみれば? ナンバーワンさん・・」

 渚や胡美と違う感情の嵐が静かにうごめく中、美月はどうやってドアまで行こうか迷う。

慎ましやかに見える華の正体が今ここにあるとすれば、それは許しがたい。

 純子は黒川が明海と腕を組んで店にやってきた光景を想い出しながら席を立った。

「帰るわよ、胡美ちゃん」

「だってー!」

「ほっときなさい。 客の一人二人どうにでもなるわ。 どうせ一時の気まぐれでしょ」

明海はウエーブがかかった長い髪を掻き揚げ上げながら、余裕の華を見上げた。

「なんて女! マネージャーと出来てる強みね。 いいわね、女としては何かと都合が・・」

「!・・・」

「何言うの! 純子さん、黙って帰るんですか?」

胡美が渚に向かっていった。 渚は明海を守り、胡美は可愛がられてきた純子を守る。


「あのう・・・すみません。 私、」

美月がおそるおそる7人の殺気に息を吹きかける。

「お客様って、紫音にくる人は、誰の物でもないと思いますが・・」

「何、あなた! 新米が口挟むんじゃないよ! えー! なんだって? もう一度いいな!」

「はい、今日のお給料はお客様からもらったものです! 違いますか!? 新米でも

ベテランでも、紫音のドアをあけるお客様は私達の所有物ではないってことよ!・・」

予期せぬ言葉、それは言ってる美月も困りながら、それでも止まらぬ口を塞ぎにきた渚。

渚は香水の匂いをさせながら、鋭く赤い爪で美月の顎を持ち上げた。

「今、なんて言ったの? ひよこちゃん!!」

すると、渚の敵だったはずの胡美がすたすたと近づいてきて大声で言った。

「月夜の晩に、外歩くんじゃないよ! 暗い夜道もね!」 興奮する胡美。

「・・・? いいわ!・・歩かない! 走ってやるよ、ならいいでしょ!」

華のとげが一瞬降りてきた月に刺ささり、刺さったとげを手裏剣のようにばら撒いた美月。

「あのさあ、、月には月の事情があんのさ! 出ようが出まいが夜がないと、あんたら

映えないんじゃないの!? え! 客にも客の事情があるのよね。誰と呑もうとその夜の

気分よ! 勘違いしてんじゃねえよ! 姉ちゃん達よー! 紫音のベテランの姿がこれかよ!

情けねえな、お前ら!! 」


 美月は胡美の手を振り払ってテーブルに両手を置き、首を少し傾け、大きな目を細めて

言った。  蕾が突然開いた様を、ドアの向こうで日暮が見ていた。

「なんかいう事ないの! んじゃ、新米は帰るよ! 月眺めながらさ!」


 沈黙の後、純子の咳払いと明海の青く燃え尽きた目が、しずしずと闇に埋もれていった。


            続く( 明後日「このままじゃ終わらない」)





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最終更新日  2006/08/28 07:37:19 AM
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