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星の髪飾り

星の髪飾り

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2006/11/13
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                       Photo byしっぽ2さん

 夢うつつが頭の上をかすりながら去っていく。

突っ張った心がポキンと折れても、意地悪がこれでもか!という程追いかけてきても

息を止めずに、心が指差す方向へ歩いて行けばいい。


 噛締めることに疲れた唇に紅を指して向かった先は夜の故郷。

少しでも空に近づくようにと背すじを伸ばす美月。 

クラブ「紫音」の文字がほんのり灯っていた。 いつか降りた階段と同じ感触を

ヒールの底で味わいながら重い扉を開けた。


「試しに一曲歌わせたんだ! いや、これが上手いんだなあ、今まであんな歌の上手い

ホステスは知らないよ! 」

 大きな体から有頂天が露出していた。

険しい顔が待っているはずだった。 悦史とのけじめ、その為に仕事に穴を空けている。

支配人は事務所に入った美月に気付いていない。 まるでコインの表と裏。

状況は刻々と変化し、人の心も同じところに留まりはしない。

「クリスマスは紫音がいただきだな。 顔の造作もあの歌がカバーしてるさ!

贅肉? そんなものご愛嬌だー」

 やがて無神経な受話器が置かれ、回転椅子がくるりと回った。

「ん? なーんだ! 美月ちゃん、生きていたのかい? 」 

 百歩譲って楽観と受け取る最後の言葉。

「すみません! 今夜から店にでます」 

(客と寝るバカは落ちて行く! 私はそれを言わせないんだ! ) 

上機嫌は、浅島が話していた歌の上手な新入りのお陰だと再確認した後

静かに事務所を後にした。

「こんなものよ」 そう思いながら華連からもらった桃白色のチャイナドレスに

着替え、孤独感に苛まれぬよう濃い目の紅を指した。
 

 扉を開けた。 空間は声量のあるルナの歌で快活な別世界になっていた。

空気の肥大を感じながら、懐かしいワインカラーに目を向けた。

満席だった。 注目が美月に傾きながらストップモーションの映像が流れた。

「美月ちゃん! 」

思わず声をあげた純子に続いてポロポロと華たちが振り向く。

ひとつ、ふたつ。 ぼやけたスクリーンにくっきりと仲間の顔だけがアップになった。

一瞬ルナと目が合った。 それでもルナは大きなアクションとパンチの効いた歌声で

客を引きつけていた。 リクエストのメモがピアノに並ぶ。 

「いいねー! なかなかじゃないか! 」

ルナを追ってきた客と常連があちらこちらに散っていた。



 昨夜、言葉に出来ぬ心を汲み取ってくれた浅島がいた。 月に触れることもなく

微笑みかけた真心の発露が美月の温もりに入り込んだ。

そうして空間が鮮色から淡色へ変わったことに日暮の機転が始動する。

「美月ちゃん、日向さんの席へ」

「はい」


 黒の御一行が賑わいだ空間に馴染むことなく淡々と時に酔っていた。

「おかえり、美月ちゃん」

「ただいま、姉さん」

 黒岩が若い男に合図をすると、美月の前にグラスが置かれた。 素早さはどんな

華も敵わない。 

「けじめに乾杯!」 日向がグラスをあげた。

「バーボン? 」

 日向はそれ以上触れなかった。 悦史のことも急行「能登」のことも・・・何も。

それでも心は多くを語っていた。

 ルナという茎の太い華を迎えた空間。 少しシラケタ華たちが美月に視線を流す。

遠くから近くから、賑わいを放りなげてグラスを交わした。

キューブの中で華が微笑んだ。

「美月ちゃん、お帰り! 待っていたのよ、きっと戻ってくるってね」                      

続く





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最終更新日  2006/11/13 07:22:15 PM
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