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チーフの話しに頷きながら、視界に入る彼等のニヤニヤが気になる。 「バックヤード」 そのポジションだけは頭に入れた。 仕事はやっていくうちに五感と 体で覚えるしかない。 街路樹を出て、包む前のオムライスのような月を見た。 「ああ、やっぱり何か食べて帰ろうか」 裕子は、開けっぴろげな竜也の一言を思い出しながら、駅へ向かった。 向かっていたのは、駅と反対方向だということに気づいたのは、しばらくしてからだった。 信号がある交差点が減り、光る看板を縦に並べたビルが減り、住宅街が見えてきた。 「えっ!・・・・・・」 何事もなかったかのように、ユーターンしてまた街路樹の前を素早く通り過ぎた。 彼が言ったように、自分は限りなくオバサンなのだ。 加えて、オバサンに拍車をかけた 出来事もあった。 あの荒んた時期がいっそう疲れたオバサンをつくったのだ。 裕子はぶつぶつ呟きながら、やっと見つけたフャミリ―レストランのドアを開けた。 「いらっしゃいませー! お一人様ですか? おタバコお吸いになりますか? 」 お決まりの言葉に「はい、はい」と言いながら、案内より早く席に向かう。 「オムライス」 「はい、かしこまりました」 性格は運命なり・・・・・・文豪の言葉だったか、誰かが感嘆詞を付けて教えてくれた のかは思い出せないけれど、裕子を形成するパーツの中のいくつかが、裕子を落とし穴に 閉じ込めたのだ。 深い落とし穴から顔だけ出して、叫んだかもしれない。 足元に溜まった悪玉のパーツ。 思い込み、軽率、まんねりがその代表と言えよう。 厄介な思い込みと軽率。 世間を巻き込んで醜い言い訳をさせてもらえば、結構ある。 たとえば、オレ俺詐欺だってそうだ。 人の弱みに付け込み、期間限定で相手をあおり、焦らせる罠。 「疑うことに慣れていない」。 もうひとつの落とし穴。 メディア、報道、噂のミサイルも、時に真実を衝き抜け突っ走る。 保険等の契約、読む気を無くす白蟻のような文字。 読んだつもり、つもり違いは勘違い。 一文一句読み飛ばさず、印を押すものだろうけれど、さあ、いざという時どうだろう? 「え? そうでしたっけ。 聞いていなかった・・・・・・」では済まされない。 きっと、大きい文字より、小さい文字にこそ大事なことが書いてあるのかもしれない。 裕子は顎を、組んだ両手にのせながら、充実という膨らんだ泡が突然弾けたあの時の事を 思い出していた。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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