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「リズム感、少しはあるのかな? 」 竜也はスノコの上でギターを抱えまま言った。 「スティックにぎったことも昔はあるけど、今はね」 「昔って? 」 「うーん、25年位前」 「俺、生れていないし・・・・ってか香川さんにも青春があったんだ」 この二人の会話がやがて「ジェネレーション」というバンド結成につながる事など、 どちらも知らない。 「竜也は恋をしているでしょう? 」 「え! 何、突然? 」 竜也が座ったまま裕子を見上げた。 瞳が輝いて、もっと聞いて欲しいという素振りだ。 「なんでわかんの? 」 「ほーら! やっぱり」 「ひっかけたの? 性格悪いよ、かなり」 「奏ちゃんね。 見る目が違うし・・・・」 「別に、ってか・・・もうバレテル?・・・・」 竜也は少し焦りをみせて、狭い更衣室で体制を変えたりしながら顔を赤らめた。 「楽譜が逆さまだよ。 意外とわかり易い奴だ! あはははっ! 」 「それ、女の勘ってやつ? 」 「私だって昔、恋の一つや二つ、七つや八つしたことあるし」 「一つと八つ、全然違うし。 見栄張らなくていいよ」 「煩いなあ。 で、告白するの? 」 「俺、臆病だからたぶんしない。 本当はけっこうヤバイんだよね、一目惚れ」 「凄く気になるんでしょ? 恋愛の経過で今が一番いい時かもね」 「そうかな? クリスマスとかデートしたいよ、キスもしたい」 「女の子はお飾りと違うんだからね! 恋のヘロモンの出しすぎも駄目だよ。 でもね・・ チョコシロップの借りを返そうか? 厨房では何かと世話になってるし。 奏ちゃんのこと、 さりげに応援するよ」 「できるの? 」 「告白は自分でするのよ! 男なんだからさ」 「俺のDNA,結構意気地なしだからな」 「は? 」 その夜は熱帯夜で、裕子は隣の大イビキにイラつきながら殆ど眠れなかった。 ベランダに出ると、元気過ぎる太陽が裕子をめがけて熱のシャワーを降りかけてきた。 「うー! シミが増える! 」 朝食をパンから和食に変えたのは、街路樹での従食が高カロリーの洋食だったからだ。 もうひとつ昨年と違う光景があった。 クローゼットの奥に追いやられたスーツやシャツ、図面が入る大きめのバック。 活躍の場を失った接客用のそれらは、息を潜めて小さくなっている。 代わりに、デニムやラフなティーシャツ、チェックのコットンシャツ等が偉そうに 並んでいた。 収入も減ったが、出費も減った。 健康を取り戻せば、どこからだって再出発は可能だ。 そんなことを思いながら、今日も小林がいない街路樹の厨房へと勇んで出かける。 流れをつかむとスムーズに身体が動く。 クーラー、ファン、ガス、ウォッシャーの順に立ち上げて、大量の野菜を切る。 スープができる頃、10分間の朝礼、整えた食材をホテルパンに入れてラインに持っていく。 この日の午後も納品された食材を冷凍庫と冷蔵庫に振り分けていく。 冷凍のものは、おさまるポジションを覚えていないと冷気と重さに腰が悲鳴をあげる。 「香川さん! こっちをお願いします」 西田が早口で裕子を呼んだ。 今日のランチは満席だと矢沢が言った。 そういえば、ライスチェンジもスープチェンジも いつもより早かった。 「香川さん! 生クリームの量が多いです! 」 「はい」 「ケーキの向きが反対です」 「はい」 その時、チキンを焼いていた倉田の口笛が聞えた。 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ お知らせ 既にアマゾン、楽天での申し込みが可能となっておりますが、明日20より クロネコヤマトのブックサービス(0120-29-9625) セブンアンドワイ(http://www.7andy.jp) 書店でのご注文受付開始もされます。 (ただ、全国300書店以外には著書は置いて ありません) 文芸社 タイトル「奏でる時に」 恵 香乙(めぐみかおと)で書店受付にてm(--)m なお著書を取り扱っていただけるオンライン書店(300)のリストは今月末にこのページに 掲載いたします。 こちらでは3月初旬より、ご購入可能とのことです。 100数ページ、意外と薄いです。 皆様にはたくさんの励ましや応援を頂き、本当に感謝の思い出いっぱいです。 また、きっかけを作ってくれた友人、背中を押してくれた旧友、パソコンでのアップを 薦めてくれた職場の仲間、書く事の意味を深い眼差しで見届けで下さった先輩、 表紙写真やあとがきで助けて下さった 仲間。 そうして影で支えてくれた家族。 あ り が と う まだまだ未熟です。 たくさん勉強して、感性のアンテナを磨いて いきたいと思っています。 これからも、天然香乙をどうか宜しくお願い致します。 トップ撮影 kitakitune05さん お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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