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星の髪飾り

星の髪飾り

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2007/02/26
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 ダンスサークルのファミレスタイム。

その日裕子は少々不機嫌になっていた。心の声に逆らえない。

「あれはちょっとハズレくじ引いたわね!」

「担任は選べないから、1年間はしかたないわ、実際」

(教師もまた親を選べない?)

「あら!指名制度なんか提案したら?高倉さん」

 裕子は焦点の合わない空間で、このレストランの厨房にも手を止めることなく働く者が

いるのだと、ぼんやりと考えていた。

「香川さん、お子さんいらっしゃらないから、こういう悩みもないのね」

「同時に歓びもないわけですから・・・・・・」

「そうそう!香川さん、街路樹で働いているんですって? 」

 メンバーの一人が甲高い声でいうと、好奇心のまなざしが飛んで来た。

「は、はい」

「うちの子、宮原洋介君と同級生だったの」

 ああ、そういうことかと思いながら、慌てて心に仮面をした。

同時に洋介の顔がアップで浮かんできた。

「よく働く子ですよ、彼は」

「ちょっと元気な子でね」

 「元気」という言葉の裏に皮肉が込められていた。

「ああ、ヤンキーって感じの? 」

「いじめにあって転校したのよ。そういう子を率先して面倒をみる専門学校に移ったの。

通信で高卒を認められるシステムがあるのね今。だからアルバイトなんかできるの」

 裕子は軽く儚げに微笑み、黙って木製の椅子の背もたれに寄りかかった。

初日にボタン式のタイムカードのやり方を教えてくれた、茶目っ気のある小柄な洋介。

以前休憩室で小林と矢沢が話してくれた内容が、ここで語られる。それは予想外だった。

 主犯格は洋介の中学の友人、そこに6人ばかりがグルになって、目立つ、チビ、等と

取って付けたような理由を探し、洋介を殴る、蹴る。あげくにロッカーに閉じ込め転がした

という。 

「犯罪じゃない! 」

 裕子は確かそう言って、休憩室で二人を驚かせたと思う。



「学歴じゃないっていっても、きれい事。でも小野さんの所はそれ以前の問題ね」

「ああ、塾代が消えたってあの事件ね。髪を金色にして喧しい音楽に! 」

 また話が飛んだ。

(いないメンバーの話をするな!)

「いじめより、マシかも」

「担任が育児の経験なしっていうのも不安材料になると思うけど、どう? 」

「男子生徒に人気があるらしいわよ、彼女」

「ま、高倉さんの所はお姉ちゃんも優秀だったし、問題ないじゃない」

 リーダー高倉は好ましい微光を浴びるように「いいええ、とんでもない」と笑って

コーヒーカップを握った。

「目的がはっきりしていれば進学もいいんでしょうし、専門学校や通信やアルバイトや

今は個人の状況で進めるから恵まれていますね」

「そ、そうなのよ香川さん。でもやっぱり親はね、子供には立派になってもらいたいのよ」

「うんうん、安全圏にいてほしいわね、こういう世の中だし。フリーターやニートは

やっぱり・・・ねえ? 」

 高倉の隣にいつも腰掛ける、そしてダンスにとても特徴のある一人が皆に同意を求める

ような口調で言った。

 裕子は顔を歪ませていた。

(いい子の位置付けを決めつけようとする傾向に、子供達の人間としての価値は何処へ)

「あのう・・・・・・」

 裕子が唾をごくりと飲んた後、重い顔を上げた。

「立派ってなんですか? 基準は? 塾に行きたくないのに言う場を与えない? 音楽結構!

育児経験がなくて教壇に立つのも立派じゃないですか?」

 普段おとなしい裕子に呆れた面々が、いっせいに隅っこの声に姿勢を正した。

「香川さん!理想論よ。お子さんがいないから! 」

「それはそうですけど・・・・・・」

 裕子は、洋介の名前さえ挙がらなかったら、きっと足元から興奮の血流が心臓に向かって

くることは無かったのだろうかと俯いた。

この時「街路樹」の存在が、一年に満たない月日の中で裕子に安らぎを与え、わかちあいが

乾いた心に浸透していた事を実感した。


「香川さん、何か?」

 この中には、空っぽの頷きをして波風を立てずに上手くやっていこうとする者がいる。

それが誰と誰か、裕子には何となくわかるのだ。

それが大人だとすれば、それはそれで、世の中のあちらこちらに転がる小石。

今や当たり前の光景だ。

「宮原君のことがひっかかっているのでしょう?いじめられる側にも理由があったのよ」

「そうでしょうか?昔はよかったですね。学校が居心地悪くても、家に変えれば地域に

楽しい集団があったりしました」

「香川さん!昔は昔よ」

「そうですが、一つ訊いて良いですか? 安全圏って傍観者ですか? それとパシリ? 

いじめの周囲にはいろんな形が存在するし、まあ、煽るよりはいいんでしょうけど」

「パシリ?、煽る? 香川さん、随分慣れた言葉使いで」

 顎を突き出した一人が含み笑いをしながら両脇の二人と顔を見合わせた。

「もしかして香川さん、元ヤンキ―だったりして!あら、嫌だー冗談よ冗談! 」

 どっと笑いが出た。 フロア―の店員がちらっとサークルの賑わいを見た。


「私、ここ引退します! 」

「引退って、女優じゃあるまいし。ダンスお止めになるの? 」

「止めませんよ。このサークルをやめるんです。ここの話題は嫌いです! 暇つぶしに

人のこと、お茶のツマミに(?)してんじゃねえよ! だいたいあんた等の方がずっと

可笑しいんだよ!差別と偏見の固まりじゃん! 子供の受け皿になれる母親はいねえのかよ! 

ん? 」


 闇の中へ差し込んだ光かトゲか?

消えた敬語。

感染した若者言葉。

「ばれた素性」と誰かが囁いた。

撮影yuu yuuさん





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最終更新日  2007/02/26 05:15:12 PM
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