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星の髪飾り

星の髪飾り

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2007/05/22
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カテゴリ:カテゴリ未分類

 ♪戸惑う人の背に降りつける雨・・・・・♪

竜也の歌声に各々の音が加わると、裕子は鳥肌が立った。 緩やかなメロディーと話し

かけるような詩を丁寧に味わう空間が温度を上げはじめる。 

胸の鼓動がスティックに伝わり、配置された7種類のリズムに弾け散る。 

(もう、大丈夫!)

 ♪一緒に泣いてくれた友の隣でほほえんでいた・・・・ 

 旅立つ君をただ黙って送った父の・・・・涙を受けとめて・・・♪

フロアードラム、ハイハットシンバルに左右の足、クラッシュシンバル、フットドラムは

右手、スネアドラム、スモール&ラージタムが両手。 

あれほどの神経の硬直が一旦解けると不思議なパワーが地の底から湧き上がる。 

(宇宙の中に竜也がいる。 みんながいる・・・一体になって弾けてる)

こみ上げる感動とオバサンの図々しさは、次があるとは限らないステージで自在な

迫力となる。


 倉田の視線が一点に集中した。

「厨房のあの人そのものだ・・・・両手両足が分裂して」

 ちゃっかりチケットを拝借して、隠密で会場にやってきた秀明が目を丸くした。

「あいつ・・・開き直ってる。 狂ったオバサン」


 ♪僕を知っているだろうか? いつもそばにいるのだけど 

 MY NAME IS LOVE ほら 何度でも僕達は出会っているでしょう

 そう 遠くから 近くから 君のこと見ている・・・・♪

「次は俺のギターのサビ。 シンバルは思い切り打て!」

 竜也が輝く瞳で裕子を促した。

「わかってるよ竜也!」

 裕子は様にならないウインクをした。

(シワが増えるよ) 竜也が笑った。

千尋が目を細めて最高の笑顔を魅せた。 

矢沢が体に波を起こしながら到達を迎える瞬間に酔う。 

裕子のスティックが大きく飛び散った後、曲が静かに終わっていった。

  

 竜也は余韻を胸に充満させた客席に語りかける。

そして奏を見た。 奏はゆっくり前に進み両手でマイクを握り締めた。

思わず祈った。 メンバーの誰もが同じ時空にいた。

「では皆さん! 最後に奏が歌います。・・・・素敵なイブに捧げます」

 ありきたりのジーンズの上に羽織った白いシャツが、柔らかいライトで純白に輝いた。

誰もが妖精のように美しい奏を見つめている。 

静寂の中に溜め息が漏れ、やがて甘い口元から潤いのある声が流れ出した。 

アメージング・グレイスを声量豊かに歌う奏。 

(パパ・・・聞こえる? パパに届くように歌っているのよ)

才能を開花させた奏に多くの人がうっとりと聞き入る。

黙っていられないダンスサークル熟年層が、ひそひそと右に左に顔を寄せ合う。

「凄いわ、あの子! プロみたい」

「埋もれているものよ、本物って・・・」

「あんなキャシャな体から、この声量!」

 透き通るような歌声は果てしなく空高く、雲をわけて昇って行く。

虹に出会って尚ほほえみ、太陽に到達して一緒に海を照らす。

二番に入って曲のうねりを迎えると、四人は空から落ちる小雪のように優しくそれぞれの

音を加えていった。 魅了した魂の歌は喝采の中で終わりを告げた。 

奏はこぶしを握りしめ、そっと瞳を閉じた。



 倉田は早々に闇の扉を開けた。

同じように席を立つ中年の男がふたり。 ひとりは秀明だった。

会場を出てバス亭に急ぐ倉田に、男が小走りでやって来た。 

耳の辺りの髪が白く、倉田よりちょっと体格がいい。 男は頬を紅潮させていた。

「すみません。 このバスは駅に行きますか?」


                      次回「世代」 最終章
photo byしっぽ2さん





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最終更新日  2007/05/22 07:15:11 PM
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