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星の髪飾り

星の髪飾り

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2007/08/27
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「失礼するよ」

 一刻も早くこの圧力から開放されたい。 体のすみずみまで衝撃を浴びた俺は

鉛のような心臓を抱えて立ち上がった。 

「血は争えないわね、誠二さん? もちろん私も・・・・・」

 優の声を背中で聞き、壁の無い個室を出ようとした。 

一歩が出ない。 どっちの足も言う事をきかない。鏡に映った目は充血し、毛穴からは

汗が噴出し、声も出ない。

「君の母親は誰? レイプした男は? 毒殺? 親父の始末は?・・・・・」
 


 やがて俺は目覚めた。 

見慣れた天井、ベッドカバー、シンプルなスタンド、遮光カーテン、クリスマスローズの鉢、

遊泳する熱帯魚、馴染んだ空気、車道と摩擦を繰り返すタイヤの音、淡々と時を刻む時計。 

汗でぐっしょり濡れた体を横たえたまま、動悸が治まるの待った。


 俺が正常になった頃、眠剤さえ打ちのめした夜がしらじらと明けた。タイマー作動した

暖房のウイングが左右に動き出した頃、俺はジャケットからタバコを取り出した。

閉じられたカーテンの端を摘まんで外に空があることを確認した後、ひんやりした

ソファーに腰を下ろし、冷静に「夢の中の現実」に思いを巡らせた。 

もうこれ以上の過酷に苛まれることはないと苦笑した。 



「夕舞」で最後に聞いたのは、千恵子の名前だった。 

総てのものと関係している・・・・そんな笑みを浮かべた優も、しだいに勢いを失い

焦燥の檻の中に沈んでいった。 前で肩を落とす男に喰らいついて失ったエネルギーが

優の体を空洞にした。

「俺は千恵子を犯していない。 父親と同じ罪を犯していない。 千恵子は死んでいない。

君と千恵子の接点がない。 君は妹ではない」


 俺はひとつひとつを否定した。 

「どうってことないさ・・・・・通りすがりの女と終わっただけのことだ。肌に合わない本の

ページを一枚捲って溜め息をつけば総てが終わる」 

             photo by kitakitune07さん





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最終更新日  2007/08/27 09:59:24 AM
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