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![]() シーン3 「ご褒美はフラフープ」 1 暑い盛りに入った頃、息抜きの機会を得た真沙は、水玉のブラウスを着て長い髪をきれいに整えた。 多希子は、おめかしした真沙を見て、自分もお気に入りの靴を履いた。 赤い靴のベルトの部分には、大きなリボン付いる。 「お出かけ、お出かけ!」 はしゃぐ多希子の手を引いて、通りに出てくると、フラフープを回す若者達に出会った。 「あの丸い輪っかをまわすと偉くなる?」 「ならんよ。 目がまわるだけだに」 「れんげの畑には、もう行かんで、あの輪っかが欲しい・・・」 多希子には、彼等がとても楽しそうに見えた。 真沙は立ち止まる多希子を上手に騙して歩きはじめた。 自動車が流れる大通りに出ると、大きな宣伝画が付いた映画館が見えてきた。 チケット売り場には行列が出来ており、退屈しのぎに、真沙がハンドバックから甘露飴を出すと、多希子の頬は右に左に膨らんだ。 やがて重い扉を開けて暗闇に入った多希子は、真沙の手をぎゅっと握った。 「映画は暗いの?お化けは出ん?」 「大丈夫だに。 おりこうに出来る?」 「うん、おりこうにするで、ご褒美はあの輪っかだでね」 多希子が「ご褒美の契約」を済ませると、辺りはもっと暗くなり、ブザーがなった。 真沙も大勢の人と同じように気持ちと整えた。 多希子の眼差しは時代のヒーローを追った。 刀を抜くお侍、綺麗な着物のお姫様。 けれど多希子の好奇心は次第に衰え、足をフラフラさせながら、退屈を励ました。 ハンカチで涙を拭く真沙の耳元で、多希子は両手を膨らませて囁いた。 「チャンバラは悲しいでね・・・もう見ん方がいいに」 photo by しっぽ2さんさん お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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