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星の髪飾り

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2007/11/04
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                  シーン17

 その晩、冴と良子が五平餅をこしらえていた。
良子は膝の先ですり鉢を支え、味噌に山椒や胡麻を加えて擂りはじめた。 冴は小判型に丸めたご飯を、竹串に三つずつ刺して網の上に並べていく。 ふたりの手は魔法のように動いていた。
「何しとるの?」
 囲炉裏の上の天井は高く吹き抜けており、煤で黒く覆われている。
「今夜はタッコちゃのお祝いだに。 五平餅をこしらえとるの」
「いい匂い! 囲炉裏の炭で、お団子の行列を焼くの?」
「そうだにタッコ、ここに座りな」
 冴は隣に多希子を座らせ、小さい手をとった。
「タッコ、五平餅は伊那谷のご馳走だでね。 たんと食べて大きくならにゃあ」         「うん」                         
 暫くすると、ごはんに塗った小判の味噌がじりじりと動き出し、香ばしい焼き色を作っていた。
「いい匂い!」
 多希子が屈みこむと、小さい冴の顔が誇らしげに膨らんだ。                 

 進二が息子の勝樹を連れて囲炉裏端にやってくると、竹串にしがみ付いた歪な小判を見て微笑んだ。
「さあ、みんな揃ったで食べめえか」
 こうして、図々しく行列に加わった多希子の傑作は皆の心を和ませ、歓迎会には胡麻や山椒に負けない、心の香辛料が漂った。                                         
 こうして新しい家族との暮らしがはじまった。 オルガンの下で眠るランドセルには、去った人のぬくもりが詰まっていた。                     
 
 
 夜が深まるにつれて、天竜川が自然の息吹を唸らせた。 雄大かつ繊細な流れの運びは、心の色に沿って和音を奏で、多希子の五線譜に新たな音色が加わった。

               次回 「転校生は町からやってきた!」

 photo by しっぽ2さん





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最終更新日  2007/11/04 08:20:43 PM
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