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紫陽花の葉の上で雫が光っていた。 庭の片隅には母が好きだった小さな桜の木がある。 夏を越え、秋の休息を経て、厳しい冬に 耐える。 ほんの一時ふわふわと花びらを揺らし、誇らしげに春の主役を演じる桜が 僕も好きだ。 靴職人の父は浅草の工場へ、妹の和奏(わかな)は三人分の弁当を拵えて学校へ行った。 多くを訊かない二人にすまないと思いながら、僕は庭を眺めていた。 梅雨明け間もないある日、置き去りにされたの自転車のサドル拭いているうちに、ふと 街に出たくなった。 心療内科で処方された薬が効いてきたのか、僕はそのまま自転車に跨がり 路地を抜けた。 表通りに出るとペダルを漕ぐ足がとても軽いことに気づいた。 「空がこんなに青い! 」 僕は感動した。 風から感じる季節と心地よく調合して、見えなかった「明日」がこの青に溶けている。 そしてこの日、こころの薬箱に新しい風が入り込んだ。 photo by しば桜さん お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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