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星の髪飾り

星の髪飾り

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2008/06/12
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           主人公 柴田利春
                                妹  和奏
                      介護福祉専門学校の仲間   隆夫、千尋、朋子
                                 
                                
                       

 


 夕立が通り過ぎた中庭で、明日の色を抱いた朝顔に触れる。

「口紅のようだわ」
 
和奏は蚊取り線香を子豚の容器に入れて僕を見上げた。

「兄ちゃん、朝顔の花言葉知ってる?」

「まあ」

 浅草朝顔市で、僕等は人であふれる仲見世通りを歩いていた。 

花の香りが立ち込める賑わいで、浴衣の裾を揺らしながら朋子が言った。

「愛着の絆」 

 その声は風鈴のようにささやかで、まるで美しい音色だった。 蕾を指さし「ねじれ」と

言って肩をちょこんと上げた仕草も、僕の胸で眠っている。

「なーんだ、知ってたの」

「絆に会ったよ、最近」

「何それ?」

「もう会えないと思う」

「兄ちゃん、訳わかんないー」 

 彼の背中に描かれた「絆」の文字が雲の迷路から顔を出し、爽やかに走り去る自転車が

頭を霞めた。

もう和奏はいない。 まるで気の早い雲のようだ。 せかせか家中を動きながら、起用に

メールをうち、流行の服を着て鏡の前で何度も角度を変え、にこやかに振る舞う。

けれどそれを見ると、僕は心底ほっとする。 きっと父も・・・



 僕は部屋に戻り、ベッドに寄りかかって携帯の受信履歴を開いた。

「あれから三ヶ月、そろそろ飲むか? ってか夜勤、超キツイよな!  隆夫」

「柴田君。 仕事はどう? 音、ないから気になって。  千尋」

削除を押す度に指先から心臓へ虚無が巡り、やがて体が深く沈む。 

カーテンの揺れ、秒針の刻み、階下の気配が僕を眠りに誘う。 



「いつまで優等生でいるんだよ。 みんな地球の欠片に過ぎないよ。 同じ重さのひとかけらだ。
自然も時間も君の味方だ。 俺もだ・・・」
 

 セピアの夢に現れた彼は、庭の木陰から静かに僕に語りかけて去って行った。

裏木戸の軋む音で、僕は目を覚ました。

 


イメージ写真 ちぎれ雲さん





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最終更新日  2008/06/14 08:05:58 AM
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