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「 草野朋子様 今日は細かい霧雨が降っているね。 あんまり静かなので白い便箋を前に困っているよ。 咳払いなんかして・・・もう何枚も便箋を捲ってるし。 手紙を書くことから離れていくのかな、僕等は・・・ 庭に面した古い縁側に腰掛け、懐かしい丸文字を追っていると、まるで朋子がすぐ傍で話を しているような気持ちになった。 元気でやっているんだね。 最近、介護の送迎車の往来が目立つな。 激変する社会、人手不足や労働条件の厳しい中、みんな頑張っているんだね。 朋子の心根が優しいから、感動と出会える・・・そう思うよ。 (朋子ってこんなに喋るんだ? 耳元で囁いて僕を散々困らせた少女は誰だったんだろう?) 僕は今、食品工場で積荷のバイトをしているよ。 暮れかける夕陽を眺めたり、月の出入りを見上げたり、パチパチ煌めく星の音を感じたり・・・ いろいろあって皆と路線が違ったけれど、今の僕の居場所はここだと思っている。 二年ダブって転校してきた時と同じで、最初は顔を上げることすらできなかったけれど、 今は限られた人と話ができるようになった。 ありがたいよ、僕の詰まりを待ってくれる人。 最近気になる奴がいて、軽快に振り回されている。 どっかの誰かのように自然体過ぎて 憎めない。 彼は大柄で、俗に言うイケ面。 僕とは見た目も気性も正反対だ。 自分の楽しみを追及する彼の色が、僕には羨ましい。 朋子の仕掛けは僕の心を軽くしてくれたよ。 ありがとう。 不慣れな手紙だけれど、電報のようなメールよりマシかな? 仲間に会ったらよろしく。 追申: いつかどこかで会うより、手紙の方がずっと正直になれるものだね。 柴田 利春 」 PHOTO BY aniy-line お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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