2020/09/13(日)17:23
笑えないブラック・コメディ★「絞死刑」
死刑反対論者の大島渚監督が、渾身の力をこめて作った「絞死刑」('68年 創造舎・ATG提携作品)。
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死刑囚の青年R(尹隆道)は、いよいよ「その日」を迎え、
東京拘置所の教育課長(渡辺文雄)、所長(佐藤慶)、検事(小松方正)に見送られ、
牧師(石堂淑郎)に祈りをささげられたあと、「国家の名の下に」刑を受け、
医師(戸浦六宏)に心停止を確認され、
拘置所の裏口からめでたく「出所」するはずだったのだが、
ロープに吊るされても、一向に心停止しない‥‥!
慌てる見送りの面々。息を吹き返したRは記憶喪失。さあどうする‥‥???
出だしがいきなり、「あなたは死刑場を見たことがありますか?」という手書きの文字。
まずこれに、多くの観客がドキリ。
続いて、大島渚監督自らのナレーションによる、死刑場のご案内。
一見文化住宅風の建物の中に、死刑囚の待機室(畳の部屋の真ん中に和式便器が白く浮かび上がっているのが、なんとも不気味)、
隣は倒産しかかった不動産屋にだってなさそうな、安手の応接セット。
そして‥‥上は絞首台!
目隠しをされた一人の青年が、後ろ手錠をかけられ、
看守に両脇を抱えられ、十三階段を上がらされ、首にロープを。そして‥‥
青年の足元の扉がガッターン!!
とまあ、ここまでは迫真の、ごく生真面目な社会派ドラマなのですが、
死刑囚Rが蘇生したあとは、ドタバタの連続。
記憶を失ったRに、もう一度彼が犯した罪を思い出させ、
その罰として「死んで(正確には国家に殺されて)詫びる」ように仕向けるため、
旧帝大卒と思しきエリートの教育課長や所長、医師たちが(渡辺氏、戸浦氏、石堂氏は、事実旧帝大卒)
四苦八苦しながらRの犯行の再現をするのです。
だけど合法的殺人機械・絞首台の前で、国家権力を背負ったお歴々がドタバタを演じる様子は、
いかにも反体制の大島流で、ブラック・コメディらしいけど、モイラは笑えませんでした。
「国家による合法的な殺人」というテーマがテーマですからね‥‥
場面が死刑場からいつしかコリアン・タウンに変わるというシュールさ、
何の前触れもなく突然登場するチマ・チョゴリ姿のRの姉(小山明子)の、ほとんどムリヤリな設定には、
首をひねってしまいました。
しかし、予算が乏しいからこそ実現できた、濃い俳優陣たちの密室劇は、なかなか見ものです。
石堂淑郎氏は作家ですが、どこかいんちき臭い牧師を熱演していました。
石堂氏はよくテレビや映画に俳優として出ておられましたね。「必殺仕掛人」(TV)の、梅安が何度針を刺しても死なない不気味な大男役も印象に残ってます。
また氏モイラの亡き父の知り合いでもあられます。
「死刑」「民族問題」という極めて厳粛なテーマに真正面で取り組んだ監督の姿勢には感服しますが、
ちょっと監督が暴走が激しすぎ。
イデオロギーを前面に出しすぎ。よってこの作品、「トンデモ映画」の範疇に入れさせてもらいました。