カテゴリ:独断と偏見に満ちた映画評
人間、なるべくなら嘘をつかずに生きたいものです。
とは言っても、保身、見栄等のために、つい口にするのが嘘というもの。 しかし、自らの保身のためについた嘘が、 一人の人間の人生を左右するほど重たいものに発展してしまったら‥‥ 今夜の映画は、原作・松本清張、'60年東宝の「黒い画集 あるサラリーマンの証言」です。
中年サラリーマン石野(小林桂樹)は、妻と一男一女のいる円満な家庭を営んでいたが、 裏では部下の若い女性・千恵子(原知佐子)と不倫中だった。 ある夜、石野は新大久保の千恵子のアパートから帰る途中、 駅近くで近所に住む保険外交員・杉山とすれ違い、 つい習慣的に挨拶を交わしてしまった。 そして数日後、杉山は向島で起こった主婦殺害事件の容疑者として逮捕され、 アリバイとして、事件当夜は新大久保駅近くで石野に会ったと、主張するのだった。 苦悩する石野。あの夜、杉山と新大久保駅近くで会ったと言えば、不倫の事実が明るみになってしまう‥‥ 石野は杉山に申し訳ないと思いつつも、事件当夜、彼には会っていないと嘘をつくのだった。 しかし、無実の人間を重罪に陥れる嘘の重圧が、石野を次第に追い詰め‥‥ ごく平凡な小市民が、ひょんなことからとてつもない大事件に巻き込まれ、苦悩するという筋立ては、まさに清張マジック。 その清張マジックを際立たせているのが、堀川弘通監督の表面的には少々ざらつきながらも念入りに計算された演出と、 橋本忍氏のこれまた緻密な構成による卓越したシナリオの力、 そして平凡な中年男の悲哀を上手に演じた小林桂樹の演技力でしょう。 この作品を観てつくづく思うのは、妻子ある中年サラリーマンって、 そんなに若い部下と不倫をしたがるものなのかということです。 人間、平々凡々に生きていると、ハンで押したような日常にうんざりして、冒険もしたくなるってわけでしょうか‥‥ しかし、冒険の代償はとてつもなく重いものだったというのが、本作品のテーマ。 ラストシーンは、観ていて本当に怖いです。 つまりは、「家庭を大事にするなら不倫なんかするな」ってことですね。 なんて書くと、なんか道徳映画の紹介みたいですが、 この作品の要は、主人公が嘘の重圧に苦しめられる心理サスペンスです。
お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
[独断と偏見に満ちた映画評] カテゴリの最新記事
|
|