【粗筋】
「三井に五十万円貸してある、鴻池はまだ返さない、岩崎の五十万はどうした……」
と、景気のいい話を大声でしている家がある。これを聞いた車夫が、たまたま岩崎家の手代を乗せてこの話をしたが、調べてみてもそんな借りはない。その家を訪ねて、五十万円の借りはないはずだと言うと、
「これは気養い帳につけてあるだけだ。人間金がないといってくよくよしても始まらない。だから勝手に貸金をつけて楽しんでいるのだ」
「なるほど、では私も景気よく、利息をつけて全部返したことにしましょう」
「よし、じゃあ、私の帳面に入りとつけておこう」
【成立】
文化(1807)4年、喜久亭寿暁のネタ帳『滑稽集』に「ほしい物帳」とある。小噺程度のものであったというが、これを柳家小さん(3)が明治の頃に時代に合わせた改訂をして作り上げたものらしい。だから正岡容は小さんの創作としているのだろう。三升家小勝(5)が得意にしていた。「気晴し帳」とも。