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助産婦メモルの日常~Happy Birthな毎日~

17才



17才

高齢出産の多い中で珍しく17才夫婦がやってきた。
夫婦と言っても、だんなさんもまだ17才、2人ともまだ高校生。法律上も夫婦になっていない。
2人とも金髪。雰囲気的にもまだ彼氏と彼女といった感じだった。

夜中に陣痛がはじまって、17才のIさんは病院にきた。
同じく17才のだんなさんと、Iさんの両親、そしてだんなさんのお母さんに付き添われてきた。
きた時からすでに力が入りまくって叫び倒していた。

内診の結果、子宮口は2センチ。
「初めてのお産だし、まだまだだねぇ。」
と、先生。
「ええ~~。もうイヤ~っ!!」
と泣きそうになるIさん。

「痛い~っ!!もうイヤ~っ!!早く切って~っ!!」
叫び倒すIさんに
「今から力使ってたら、いざお産の時疲れちゃってるからね~。」
と、メモルはなんとか呼吸法を誘導する。
「フーフー。フーフー。」
一緒に呼吸法をして、なんとか痛みを逃せられるようになった。

ふー、やっと一安心。勝負はこれからだ~とメモルが思ったのもつかの間、だんなさんが一言、
「ほな、俺は家に帰るわな。」

え?!

「ええ~っ!なんでぇ~??」
Iさんがまた泣きそうになる。
「あんた、何言ってんの!ちゃんとついててあげなさいな。」
だんなさんのお母さんも怒る。

「だってまだまだ生まれへんのやろ?お前フーフーうるさいし、俺寝られへんやろ。」

Σ(^∇^;)えええええ~
・・・さすがのメモルも言葉を失った。そんなこと本人の前で言うか?!メモルもいるというのに・・・。

えーとえーと・・・、気を取り直して、
「でも若いからお産の進行もきっと早いよぉ。ついててもらった方がきっとIさんも安心と思うし・・・。」

「じゃあ、看護婦さんがついてやってや。その方がよっぽどこいつも安心やと思うで。」

Σ(^∇^;)えええええ~ そうきたか。

「看護婦さんだって、他にも仕事があるのよ。あんたがついててあげなさいな。」
と、お母さんがまた怒る。
「明日も学校行かなあかんねん。しかもテストあんねん。テスト勉強してないし。」
「学校なんて休みなさいなっ! テストなんて追試受ければいいでしょっ、いつものことなんやから。」
「ほな、母さんがテスト受けてきてやー。」
「あほなこと言いなやー。」
親子でケンカが続く。
メモルはもう何も言えず、笑うしかなかった。(T▽T)アハハ!
その横でIさんは「フーフー、フーフー。」

なんやかんやと言いくるめられて、だんなさんは付き添うことになったのだが、
これと言って何をするわけでもなく、Iさんからちょっと離れた場所でイスに座って雑誌を読みはじめた。
Iさんのお母さんとだんなさんのお母さんが交代で、腰のマッサージをしていた。
お父さんは心配そうに、立ったままIさんを見つめていた。

陣痛室を出たメモルは一抹の不安がよぎった。
あの人は本当にパパになれるのだろうか??

ナースステーションに戻り、メモルは先輩の助産婦に言った。
「ちょっとー、どう思います?? 『フーフーうるさい。』とか言うんですよー。」

「まぁ17才やしなー・・・。『もうすぐお父さんよ。』って言われてもそりゃ無理やろうなぁ・・・。」
と言って、そのまま言葉を失っていった。
はぁ~と2人でため息をついた。

「よし、生まれたらすぐにだんなに赤ちゃん、抱かせてあげようっ!それで少なからず父性がでてくるやろう。」
そう言う先輩に、
そんなうまくいくもんかなぁ~。と思いつつ、
でも赤ちゃんには不思議な力があるし、うまくいくかもなぁ、とも思い、
生まれたら無理矢理にでも赤ちゃんを抱かせようと決意した。

しかし、すごいなぁ。17才って・・・。
若いから分娩進行も早いんだろうなぁ~。
と思っていたら、陣痛室からものすごい叫び声が聞こえてきた。

「痛い~っ!!もうあかん~っ!!出る~!!うーーーー。」
と、思いっきりきばっていた。
診察してみると、もう8センチ。
「全部開くまでもうちょっとやけど、頑張れるかなー??」
「無理ぃ~~っ!!!うーーーー。」
「じゃあ、分娩室に移動しておこうか。」

力を抜いて、と言ってももうとても抜ける状況ではなかった。
分娩室まで歩けるわけもなく、ベッドごと分娩室に移動した。
分娩室に入って、もう1度診察するとすでに全開していた。

若い人が分娩進行が早いことが多い、というのはメモルも経験済みだが、
さすがに17才は初めて。こんなに早いとはっ!! びっくり。(@o@)
同じく先生もここまで早いとは予測しきれなかったみたいで、「全開した。」と、連絡をいれた時には驚いていた。

先生も分娩室にやってきて、バタバタとお産の準備を整えた。
そして、あれよあれよという間に赤ちゃんは生まれた。
いきみ方がとっても上手。素晴らしい体力。若さゆえだな、と思った。

「ふにゃ~。」と少し弱々しい第一声のあとに、赤ちゃんは分娩室に響き渡る程の大声で泣き出した。
「おめでとう。元気な男の子ですよ~。」と赤ちゃんをIさんの胸の上においた。
Iさんの赤ちゃんを見ての第一声は「でっか~いっ!!」だった。

「パパさんにもだっこしてもらおうね~。」とIさんに言うと、
「でもあいつ子ども嫌いって言っててん。投げたりせーへんかなぁ。」
投げる?! まさかそんな・・・。(^^;)

「大丈夫よ~、赤ちゃんの顔を見たら、きっと好きになってくれるから~。」
そしてメモルは赤ちゃんを連れて、いそいそとだんなさんの元へ。
「おめでとう。元気な男の子です~。だっこしてあげてください。」と言うと、
「・・・え?」
少し戸惑った様子を見せながらも、両手を出した。
メモルもちょっと不安になりながらも、その手に静かに赤ちゃんを乗せた。

「おおおおおおおー。ちっちぇ~っ!! 動いてる、動いてるっ!!」
陣痛室ではむすっとしていただんなさんにも笑顔が出た。
初めて抱く赤ちゃんに体は固まったままだったが、表情はどんどん優しくなっていっていた。

「私にも抱かせて。」と言うIさんの両親。
でもだんなさんは「もうちょっと、もうちょっと。」と言って赤ちゃんを離さない。

メモルは分娩室で産後の処置を受けるIさんのもとへ行った。
だんなさんが赤ちゃんを離さないよ~、と言ったら、Iさんは目を丸くして驚いていた。

「看護婦さ~んっ!!」
だんなさんの声が聞こえてきた。
?(゜_。)?(。_゜)? 何?手が疲れてきたのか?! まさか落とした?! でもお母さん達いるし・・・。

急いでだんなさんの元へ行くと、
「こいつ男なんやろ?? チン○ン見てもいい??」
(T▽T)アハハ! 何を言うかと思ったら・・・。

「いいよ~。でもあんまりすっぽんぽんの時間が長いと、赤ちゃん寒いからね。短かめにね。」
と言って、赤ちゃんを包んでいたバスタオルを取り、裸にさせた。

「おおおおおおおー。すげ~っ!! ちっちぇ~っ!!」
とこれまた大騒ぎ。

「そろそろ赤ちゃんの体重とか身長を計るんだけど、お預かりしてもいいかなぁ?」
でも「もうちょっと、もうちょっと。」と言って赤ちゃんを離さない。
そう言いつつ、もう1時間近くだっこしてるけどぉ~?  (^∇^;)
ま、いっか。
Iさんの両親もだっこしたい気持ちはやまやま、でも「ま、いっか。」と思っている様子だった。

そうこう言ってるうちに朝がきた。
「あんた学校は? 行かなあかんのちゃうの??」
だんなさんのお母さんがそう言うと、
「ええねん、ええねん。今日は休む。追試受けるし。」
もう笑うしかなかった。Iさんの両親もだんなさんのお母さんも。(⌒▽⌒)

処置が終わり、Iさんはお部屋に戻ってきた。
「Iさんの赤ちゃんを見ての、第一声は『でかい。』、だんなさんは『ちっちゃい。』だったね。」
とメモルが2人に言うと、「でかいよ~。」「ちっちぇ~よ~。」と言い争っていた。
その光景がなんだかほほえましかった。
その間もずっとだんなさんは赤ちゃんをだっこしたままだった。

17才の2人に振り回され、また赤ちゃんの不思議な力をまた実感した夜だった。

翌日も、その翌日もだんなさんは面会に来た。
学校が終わって、すぐに来てるんだろう。いつも制服姿だった。

赤ちゃんのおむつ交換をしたり、沐浴練習をしたり、びん哺乳をしたり・・・。
2人は少しずつパパとママになっていった。

退院の日、だんなさんはメモルにこう言った。
「母さんに聞いてんけど、赤ちゃんを取り上げる看護婦さんは助産婦さんって言うねんてな。
でも『助産婦さん』って言いにくいよな~。これからも『看護婦さん』って呼んでもええかなぁ~。」

「いいよ~♪」
「ところで、追試はどうなったん??」と聞くと、
「やなこと聞くね、看護婦さん。明日やねん。でも勉強してへん。追々試かもしれん。」と言った。

若い2人、これからもいろいろと大変なこともあるだろうけど、2人で力を合わせて頑張ってね。




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