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助産婦メモルの日常~Happy Birthな毎日~

守りたかった命



守りたかった命

すごく、すごく、すごくすごくすごく守りたかったのに、守りきれなかった命があった。

あんなにパパとママに愛されて・・・、絶対に守りたかった。

でも守りきれなかった・・・。守ってあげることができなかった・・・。

今でもメモルは、あなたのことを忘れられない。
あなたのママと一緒に泣いたあの夜を忘れられない。


あなたのママがメモルの勤める病院にやってきたのは、妊娠22週の時だったよね。
あなたのママはその時すでに1ヶ月以上、ベッド上安静をしてたんだよね。
ごはんも寝たまま、シャワーも入れず、トイレすらベッドの上だったよね。
それでもあなたのママは笑ってた。
それはお腹の中であなたが元気に動いていたからだよね。

妊娠15週で破水。

メモルの勤める病院だったら、100%中絶を勧めてると思う。
ううん、あなたのママも中絶を勧められたんだよ。
だけど、あなたのママは絶対に嫌だと言ったんだよ。

たとえ、これから先、見通しのつかない絶対安静の生活が続くとしても。
たとえ、長い長い安静生活をしても、あなたが亡くなってしまうかもしれないとしても。
たとえ、あなたが助かっても大きな障害が残るかもしれないとしても。
たとえ、子宮内感染で最悪の場合子宮を摘出しなくてはいけないとしても。

・・・あなたのママはあなたと一緒にいたかったんだよね。
・・・あなたと一緒に歩んでいきたかったんだよね。

妊娠22週を越えて、蘇生の対象となる週数となり、メモルの病院にやって来たね。

初めての診察で見せてくれた姿は、もうほとんどない羊水の中だったけど、あなたは元気に動いてたよね。

「この赤ちゃんは絶対に守りたいっ!」
メモルは強くそう思った。

何でだろ?
いつも常に思っていることなんだけど、このとき程強く思ったことはないよ。

産科の先生と小児科の先生たちは毎日相談してたよね。
あなたのお誕生日をいつにするかって。

あなたは羊水がほとんどない中で頑張ってたから、肺がとっても未熟だったんだよ。
それでなくても、妊娠22週。蘇生も難しい週数。

少しでもお腹の中にいて、少しでも成長してくれるのを待つのがいいのか、
今後のママの子宮やあなたの状態を考えると、
感染が悪化する前にあなたを生んだ方がいいのか・・・。

あなたのママのお腹はすっごい張っていて、張り止めの点滴は最高量だったね。
ママはかなりしんどいはずなのに、弱音ひとつ吐かずに頑張ってたよね。

結局感染も少しずつ悪化してきて、お腹の張りも止められなくなって、妊娠24週、帝王切開であなたは産まれたね。

泣き声をあげることはなかったけど、確かにあなたは生きてたね。
ちょっとだけ動いた指先をメモルは見のがさなかったよ。

・・・だけど、あなたは産まれてからたった数時間でお空にいっちゃった。

あなたのママは、あなたを抱っこして、病棟中に響き渡るほど、大きな声で泣いたね。
メモルも泣いちゃったよね。メモルは自分の無力さに涙が止まらなかった。

絶対に守りたかった命なのに、守りきれなかった。
メモルは何もできなかった・・・。

翌日、あなたはパパと一緒に火葬場に行ったね。
ママは術後1日目でまだ外出ができなかった。
だけど最後にママに抱っこしてもらったんだよね。

その日の夜、あなたのパパは小さくなったあなたをママのところに連れて来てくれたね。
ママの部屋からはまた大きな泣き声が聞こえてた。

パパとあなたが帰ってからしばらくしてね、メモルはママとゆっくりお話ししたんだよ。

まだ術後の傷が痛いはずなのに、出口に向かって廊下を歩くママを見かけて、「どこに行くの?」って声をかけた。
そしたらママは「空が見たい。」って言ったの。

メモルは少し心配になった。
もしかしてママがあなたのところに行こうとしてるんじゃないかと・・・。
安静もかなり長かったし、足の筋力も落ちてるはず。こけたりしないかな。

「私も一緒に行くわっ!」
そう言って、メモルはママに付いていったんだよ。

外に出て、メモルはママと一緒にお話したよ。
星空を見上げながら2人で泣いた。

あなたが、あなたのパパとママにとって、本当に待望の赤ちゃんだったこと。
あなたの誕生の秘密も教えてもらったよ。
あなたの名前の由来も教えてもらったよ。

ママもパパも本当に本当にあなたを愛してたね。
きっと今もそれは変わらないはず。

あなたのママが退院してから、あなたのママに会うことはないけど、外来にたまに来てるのは知ってるよ。
だけど、メモルはあなたのママに会うのがちょっと怖い。
ボロボロに泣いてしまいそうだから。

メモルはあなたのこと、本当にすごく、すごく、すごくすごくすごく守りたかった・・・。
何もできなくて、ごめんね。

でもメモルは、あなたのことを忘れない。絶対に忘れない。
あなたが確かに生きていたこと、あなたのパパやママだけじゃないよ、メモルも絶対ずっと覚えてるよ。

ママのお腹を神様に紹介してあげてね。
あなたの弟か妹が授かるように・・・。

メモルはあなたのママが、あなたの弟か妹を授かって、また病棟に来てくれる日を楽しみに待ってるよ。
あなたの弟か妹が産まれたら、ぜひメモルに抱っこさせてね。
待ってるね。




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