[かこ]の記事一覧 | 間時間

年齢

幼稚園の頃、夜中にはたと目が覚めて「人は死ぬんだ」と気付いて大泣きして以来、子供の頃随分長い間、布団に入って寝付くまで、自分はいくつまで生きられるのだろうか、いつ死ぬのだろうかと考えては、怯えていた。そんなある日、叔母が我が家にやってきて、私の頬をなでながら「いいわねぇ、人生まだまだこれからで。　おばちゃんも若い頃に戻りたいわ。」と言った事があった。その時、年齢ってお子様ランチについてくる、サクランボだと思った。はじめに食べるにしても、最後まで残しておくにしても、サクランボは、最後には食べなくちゃいけない。食べてから、食べてない人のサクランボをみて「いいな、サクランボ持ってて。」なんて言うのはずるい。何で食べておいて、食べていない人をうらやむのか？食べちゃった人は、食べてない人がまだ味わってない味を既に味わってるじゃないかー。だからおばちゃんに、「70年間も生きてから、若い頃に戻りたいなんてずるい。　私には70歳まで生きられるかどうかわからないから、叔母ちゃんの方が得してるくせに。」と、思わず言ってしまった。お得なのは長生きした人なんじゃないのかな、と思う気持ちがあるからか今の所、年齢が下の人を見ても、うらやましいと感じる心が湧いてこないのだけれど体力が落ちるくらいの年齢になると、やっぱりうらやましいと感じるようになるのかな？＠＠＠＠＠二度目の渡米中、思いもかけない出来事にまさしく「巻き込まれた」状態になって、気がついたら、（自覚も無く）学校を敵に回している様な状態になった事があった。日本では絶対にありえないような事件に巻き込まれてしまった動揺で、もうどうして良いのかわからず、とにかく友人に電話をかけた。友人はあいにく外出中だったのだけれど、彼女のお母さんが「何かメッセージでも？」と聞いてくれた時、思わずお母さんに泣き言を漏らしてしまった。彼女は私のつたない英語を辛抱強く一生懸命聞き、話が終わった後「それは本当に大変だわね。」と、言った。「一体何のために、こんな思いをしなくてはならないのか？」と泣きながら彼女に言った時、彼女は暫く間を置いて、こういった。「それは…、いつかあなたがおばあちゃんになって、ロッキングチェアーに揺られて昔の事を思い出しながら毎日を過ごすときが来た時、退屈しなくてもよいようになんじゃないのかな？」日々は、全て老後の暇つぶしのために、ある。日々は、老後の蓄えなんだ。私はこの言葉がいたく気に入った。ばーさんになるまでには、まだまだ時間があるので、せっせといろんな思い出を集めておかなくちゃネ！

おたきんのカラ弁当

小・中学校で何度かおなじクラスになったことのある男の子がいた。滝井君と言う名前で、「おたきん」（滝井菌）と皆から呼ばれて、ちょっとしたいじめられっ子的存在だった。　私の知らないところで、酷いいじめを受けていたかどうか、それは知らないけれど、クラスではせいぜい、「『おたきん』が付くから気をつけろ。」と笑いながら時々言われる程度で、陰湿なものではあまりしなかった（気がする）。おたきんも（本心はともかく）ニヤニヤ笑っているだけで、学校に来ることに特に苦痛を感じている風でもなかった（と勝手に思ってる）。今から思えば、彼の洋服が滝井家の経済事情の苦しさを物語っていた。すこし、おびえた風な感じも思い起こせばあったような気がするけど、私自身、人に対しての関心が決して強い方ではないので、あまり良く覚えてない。ところが、先日甥と姪のお弁当を詰めているとき、おたきんの事をふと思い出した。ある日のお昼時間、私がお弁当をぱくつき始めた時、一歩遅れて、隣の席のおたきんもお弁当の包みを開き始め、食べる準備に取り掛かり始めた。と、いきなりおたきんは「あ！」と叫んだ。声に反応して、箸を咥えたままおたきんの方に目をやった。見たとたん、私も思わず「あ！」と叫んでしまい、口に入れたばかりのウインナーがポロリと落ちた。彼が手に持っていたのは、なんと既に空っぽのお弁当箱だったのだ。「たべられてしもたんか？」と聞いたら、おたきんは「そうみたい・・」と答えた。会話はそれだけ。その直後意味もなく、おたきんのお弁当を食べた奴（誰だか知らないが）に対してハラワタが煮えくり返り始めた。でも、おたきんが可哀相だからではなかった。（ごめん、おたきん）だって、お昼ごはんぐらい食べなくても死なないし。何に対して腹が立ったかと言うと、おたきんのお母さんがおたきんのためにお弁当を作ってあげた。　そのお母さんの気持ち踏みにじった、くだらん奴に対してだった。私は、会った事も無いおたきんのお母さんが朝台所に立ってその朝お弁当を詰めていた姿を想像して、かわいそうで、かわいそうで、涙がちょちょ切れそうになった。と、こんなことを思い出したんだけど、今もし、つめている二人のお弁当を、誰か他の子供が食べたら私はどう思うだろう?帰宅するなり、「弁当くわれた～」と、どちらかが言ったとしたら、、おもろいやん！！間違いなく私は、バカ受けするだろうな。で、空けた時びっくりしたかとか、どうやって敵はうまく目を盗んで食べたのだろうかと、子供に聞きまくってしまうにちがいない。今、二人のために作ったお弁当がたとえ誰に食べられてしまっても、私自身全く傷つかない。どの子のおなかに私の作ったものが入っても、別になんら問題ない。ええやん、それくらい。「おいしいと思たかいな？」というのは気になるけど。もし、気に掛かる事があるとすれば、せいぜいお弁当の代わりにパンでも買ってとにかくお昼を取ったのか否かくらいだろう。きっとおたきんの母上も世のお母様方も、よその子に自分の作ったお弁当を食べられたからといって、そのことで傷つくことは無いんじゃないかと思う。（もちろん、深刻ないじめの一部と知れば、怒りを覚えるだろうがお弁当を食べられたこと自体は問題にならないんじゃないかな。）私と同様　せいぜい「で、あんた何食べたの？お昼に?」と聞いたくらいなんじゃないかな？なんであの時、あれほど痛く傷ついたのか…。今となっては、もうわからない。

帰国の朝、父の後姿、そして『「あぁ～」の歌』

24になる直前に生まれて初めて持つパスポートを握って渡米。　　　　　ざまあみろ、オヤジサマ。　　　　　やっとあなたとおさらばだ。　心配そうに見送る両親の視線を背中に受けながら、私は一度だって振り向きもせず、家の前の坂道をガラガラと、スーツケースを引きずりながら　降りていった。両親が何時まで見送ってたのかは、知らない。語学学校に9ヶ月、4ヶ月程（姪が生まれるため）帰国、その後また渡米。2年後に短大を卒業し、3ヶ月ほど20kg以上あるバックパックを背負いヨーロッパをうろうろ。その後、当時NY支店に飛ばされていた兄貴のアパートに転がり込んだ。数週間NYで疲れを癒し、最後の夜にプエルトリコ人の友人（短大時代に知り合った）、彼女の弟、彼氏、と私の4人、朝まで騒いだ後、寝ずに飛行場に向かった。朝の5時ごろだったか。まず、NY（ラガーディア）からDCへ。数時間待って、DCから成田へ。約二年半ぶりの日本だった。成田到着時、既に兄のアパートを出てから24時間近く経っていた。荷物をピックアップした後、税関をくぐり入国。一番最初にする事は、実家に電話。（これは今でも変わらない）「着いたから。これから5時間待って伊丹に飛ぶから（当時は関空なかったのです）」すると、心配性の父は「台風来てるから、待たずにすぐ東京駅に行って新幹線に乗れ。」いつも大げさなんだな、こんな風に。「もう、疲れてるから動く気になれん。」そういって、電話を切った。待つこと、4時間半。アナウンスが入り、台風で飛行機が欠航になる事が伝えられた。欠航になったことより、父の予言が当たったことが妙に癪に障った。それに、重い荷物を担いで東京駅に向かうことを考えるだけで気が遠くなった。（当時はまだ、成田エクスプレスありませんでした）でも、急がないと最終に間に合わない。疲れ果ていて　とにかく家に戻って寝たいと切望していた私は最後の体力を振り絞り、荷物を背負ってまず上野へ。その後、JRの駅まで走り、山手線に（座れなかった）。そして最終の新幹線めがけて、東京駅構内を20数キロの荷物を担いで走った。最終の新幹線のベルをエレベーター下で聞いて、最後のダッシュ。死に物狂いで乗り込んだ。もう、体力は限界を超えていたと思う。NY出発前夜、一睡もしていない事を悔いた。出発するや否や、私は2つの椅子に身体を収めて丸くなって寝た。多分すごい格好だったと思う。　旅行で焼けた肌。伸びるだけ伸びた髪。スペインでスリと間違えられて取り押さえられる程、酷い服装。そんな女が、２０ｋｇの荷物を横に置いて、新幹線の座席で横になってガーガー眠るのを見た他の客はどう思っただろう。やっと眠ったと思ったら、ちょうど一時間後アナウンスで起こされた。「台風のため、運転を停止します」動き始めたのは、それから8時間後だった。確か、京都駅に降り立ったのは、朝の7時半くらいだったと記憶している。タクシーに乗り、二年半ぶりに実家に戻ったら母は、朝の連続テレビ小説を見ながら、パンをほおばっていた。年老いて、身体が妙に小さくなっていたことにショックを受けた。朝のテレビ小説が、日本っぽい空気を放っていた。あの時生まれた姪は、すでに2歳を超えており朝からお風呂の中で行水をして遊んでいた。当時、まだ若かった。アメリカ、そしてヨーロッパを回った後、そんな私の目の前に飛び込んできたのは退屈極まりない日常の断片だった。夢が終わったような、そんな気がした。シャワーを浴び髪を乾かしていると、朝市にそろそろ出かけようかと父が言った。　当時、私が不在の我が家では、それが習慣になっていたらしい。「おまえもこいよ」と、父が誘うので、私も一緒に行く事にした。父がライトバンを出し、母と姪と私が乗り込んだ。乗り込んだ直後、「じーじー、『あ～あぁ～』してぇ～」と、さっぱり私にはわからない日本語を姪が発した。すると、父は「『あ～あ～』やな。　よっしゃ！」といってカセットを巻き戻した。しゅるしゅる～と、テープが巻き戻された後　聞いたことのない曲が流れ始めた。　　　　　知らず知らず　歩いてきた　　　　　細く長い　この道　　　　　振り返れば　遥か遠く　　　　　故郷が見える　　　　　でこぼこ道や　曲がりくねった道　　　　　地図さえない　それもまた人生　　　　　ああ　川の流れのように　ゆるやかに　　　　　いくつも　時代は過ぎて　　　　　ああ　川の流れのように　とめどなく　　　　　空が黄昏（たそがれ）に　染まるだけいつか遠い昔、憎むべき存在だった父は今2歳の子供の祖父となり、「あ～あ」をリクエストされて運転をしながらテープを彼女のために巻き戻し、そして一緒に「あ～あぁ～」と歌う。時は流れ、時代が過ぎ、はるか遠くのその故郷に戻った時、私の子供時代が終った、そんな気がした。運転をする父の後姿をぼんやり眺めながら、彼はどんな細い道を、でこぼこ道を、曲がりくねった道を歩んで、今にたどり着いたのだろうかと考えた。

図書館の片隅で

随分前の話。大学の図書館、一階東の参考資料ばかり集めてある所の一角に世界中の統計資料が置かれているセクションがあって、ある朝、そこに埋もれてる真っ最中に、ふとしたことから、明治時代の統計資料を見つけた。用もないのに気になり　ぱらぱらとページをめくっていくと、「Import/Export(輸出入)」という章が出てきて、明治初期から現在に至るまでの、主商品の輸出入の種類と金額の推移が書かれていた。何ページにも渡って。そこには、昔中学の社会で習ったとおり、明治中期からの日本の生糸輸出の急激な成長が数字で示されていた。一気に上り詰め、世界トップに立った事がグラフで手に取るようにわかった。伸びていく数字を年毎に目で追ったり、グラフのカーブを眺めたりしているうちに想像の翼がむくむくと広って、当時のイメージに頭を占領されたと思ったら、急におセンチな気分が柄にもなく襲ってきた。統計屋がこのうなぎのぼりの数字を記する結果になったその背景にその数字を打ち立てた（毎日をその仕事に費やした）人々がいた。一体どれほどの日本人がこの仕事に従事したのだろう？経営者はどんな人間で、誰が工場の機械を作ったのだろう?「ああ野麦峠」に出てくるような人生を送った少女たちは一体どれくらいいて、何処の誰だったんだろう?誰の子供で、なんという名前で　何処に生まれて　どんな一生を過ごしたのか?急激な近代化の嵐にもみくちゃにされた人々。どんなささやかな楽しみが　人々の毎日をつないていたのだろう?非人間的なことなんて、日常茶飯事だったのだろうか？その、そういう人間の集団がこの数字をはじき出した。そこまでして、はじき出す必要のあった数字なのか、私にはわからないしその数字にどれほどの価値があるのかも　わからない。でも、わかったこともあった。この数字は、これから１００年経とうが２００年経とうが、又、何処の国の図書館に行こうとも決して変わらない、と言うこと。明治の半ば、確かに日本が生糸で世界のトップに立ったという歴史的事実を、変える事の出来る国はないということ。それは、変わらないということ。慰めにもならないが、私はその当時、工場で働いていた人々一人一人に、にそれを伝えたい衝動に駆られた。「がんばらなくてもいいじゃないか」「そこまでがんばって何の意味がある?」そういう声があって、全くその通りだと、頷く自分がいる。一方、狂う程ばく進する人々や社会のその様に、どうしようもなく惹かれる自分もまたいる。あぶないな、この発言。　（笑）

炎と水と自分

3歳とか4歳とか、とにかく随分小さい頃、母が鍋を置き、つけたガスコンロの蒼い炎の輪と、ちょろちょろと、何処からとも無く流れてくる溝の水を、毎日毎日、何度も何度も交互に見ながらその炎が何で、水が何で、自分は何なのかやたらと考えていた事を記憶している。あるとき、なぜか急にこの3つは全部同じなんだと「わかり」、「わかった」あとすぐに、全部同じだという事は何にでもなれると言うことに「気付い」た。じゃあ、炎か水か自分か　どれになろうかなと、また暫く考えた挙句、炎だとすぐに消えてなくなるから困るし水だと、自分の家からどんどん遠いところに行ってしまうので困る、ということで、結局自分でいようと決めた。当時、どういう理由で炎と水と自分が同じなんだと「わかった」のかどれだけ思い出そうとしても思い出せない。今となってみれば、自分でいたとしても結局はすぐに消えてなくなるんだし水でなくても、あの時からは随分遠くまで来てしまっているし早いうちに炎か水にさっさとなっておけばよかったかな、と思ったりもする。

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