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2024.11.10
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町外れの古い商店街に、小さな和菓子屋「梅屋」があった。年季の入った木の看板と、時代を感じる引き戸が特徴的なこの店には、ほとんどの人が見過ごしてしまうほどの素朴さが漂っていた。しかし、店内に足を踏み入れると、ほんのりとした甘い香りが鼻をくすぐり、どこか懐かしい気持ちになる。

ある日、主人公の少年・春樹は、帰り道にふとこの和菓子屋に立ち寄った。好奇心から、店内を覗き込んでみると、小柄で白髪の店主のおばあさんが微笑んでいた。少し恥ずかしそうに挨拶をする春樹に、おばあさんはにっこりと「お菓子、好きかい?」と優しく尋ねた。

「はい、甘いものが好きです」と答えると、おばあさんは奥からまるで宝物のように包まれた一つの大福を取り出し、春樹の手にそっと乗せた。「これはうちの特製大福さ。お試しで、よかったら食べてごらん」と。

春樹は戸惑いながらも、大福を一口かじってみた。ふわりと柔らかな餅の中から、甘さ控えめで上品なあんこが顔を出し、その絶妙なバランスに驚かされた。もちもちとした食感と、口の中に広がる優しい甘さは、どこか懐かしさを感じさせる味だった。

「どうだい? 美味しいかい?」とおばあさんが微笑む。春樹は思わず頷き、「すごく美味しいです! こんな大福、初めてです」と感嘆の声を漏らした。

おばあさんは満足そうに頷きながら、彼にこう告げた。「大福はただの甘いお菓子じゃないんだよ。食べる人の心をほっこりさせるものなのさ。作る側も食べる側も、心が通うのが大福ってものなんだ」

春樹はその言葉に少し驚いたが、どこか胸に響くものを感じた。それからというもの、彼は時折「梅屋」に通い、立ち寄るたびにおばあさんとの話を楽しむようになった。学校の出来事や、友達のこと、家での何気ない日常などを話すと、おばあさんはいつも微笑んで聞いてくれた。そして、時折新しい大福の味を試食させてもらうのが、春樹にとっての密かな楽しみとなった。

ある日、春樹はおばあさんに「どうして和菓子を作っているんですか?」と尋ねてみた。おばあさんは少し考え込み、ゆっくりと答えた。「私も昔、ある人から大福をもらってね。そのとき、なんとも言えない温かい気持ちになったんだ。それで、自分もそんな気持ちを人に伝えたいと思って、和菓子屋を始めたのさ」

その言葉に触発され、春樹は思わず「僕も、いつか誰かに大福を贈ってみたいな」とつぶやいた。それを聞いたおばあさんは、優しく頷き、「その気持ちを大切にしなさい」とだけ言った。

春樹にとって、その瞬間が「贈る」という行為の始まりだった。それまでは、自分がもらうことばかりだったが、人に何かを贈ることで、自分の気持ちを伝えることができるのだと気づかされたのである。

その日から数日後、学校での出来事が彼の心を揺さぶった。クラスメイトの一人が体調を崩し、長い間休んでいたのだ。いつも元気で明るいその子がいない教室は、どこか寂しさを感じさせた。

ふと、春樹はおばあさんの言葉を思い出し、その子に大福を贈ってみようと思い立った。早速「梅屋」に向かい、おばあさんにその話をすると、彼女はにっこりと微笑んで、「それなら、この特製の大福を持っていきなさい。きっと喜んでくれるよ」と言ってくれた。

次の日、春樹は学校の帰り道、そのクラスメイトの家に向かった。緊張しながらインターホンを押すと、病み上がりの彼が出てきて、驚いた顔をした。春樹は少し照れながら、「これ、元気になってもらえたらと思って…」と大福を差し出した。

その子は一瞬、驚いたように春樹を見つめたが、次の瞬間、嬉しそうに笑顔を浮かべて「ありがとう」と言ってくれた。その言葉を聞いた瞬間、春樹の心にも暖かいものが広がった。彼は初めて、「贈る」ことの喜びを感じたのである。

家に帰ると、春樹はその日の出来事をおばあさんに話した。おばあさんは優しく彼の頭を撫で、「よくやったね」と微笑んだ。春樹は、その微笑みを見て、自分が人に何かを伝えることの素晴らしさを実感し、さらに深く「大福」という贈り物の力を信じるようになったのだった。







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最終更新日  2024.11.10 07:34:39
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