KJESSのブログ

季節は春から夏へと移り変わり、春樹は高校受験の年を迎えていた。勉強に追われる日々の中で、ふと気がつくと、心にぽっかりと空いた寂しさを感じることがあった。そんなときに頭に浮かぶのは、あの「梅屋」のおばあさんと大福のことだった。

受験が近づくにつれ、春樹は「受かるために頑張らなくちゃ」という強い思いと、「もし落ちたらどうしよう」という不安に押しつぶされそうになっていた。友人たちもそれぞれに受験勉強に励み、励まし合う場面もあるものの、やはり心の奥底にある不安は、自分だけで抱え込むしかなかった。

そんなある日の帰り道、春樹は「梅屋」に足を運んだ。おばあさんはいつも通りに温かく迎えてくれたが、春樹の表情に少し疲れが見えるのを察したのか、「どうしたんだい？ ちょっと顔色が悪いね」と声をかけてくれた。春樹は少し戸惑いながらも、自分の不安な気持ちを打ち明けた。

「受験勉強が大変で、毎日頑張ってるけど、なんだか不安で…。自信が持てないんです」

おばあさんは春樹の話を静かに聞いた後、微笑みながら「不安になるのは、それだけ真剣に向き合っている証拠だよ。どれだけ準備しても、不安は消えないものさ。でもね、その不安を支えるために、自分にできることをやり続けることが大事なんだよ」と語った。そして、「今日は特別に、この『合格祈願大福』をあげよう」と、縁起の良さそうな包装紙に包まれた大福を差し出した。

「これはね、私が昔、試練を乗り越えるために誰かに贈った大福を元にした特別なものなんだ。きっと、君の力になるさ」

春樹は少し驚きつつも、その大福を受け取り、感謝の気持ちでいっぱいになった。「ありがとうございます。これで頑張れそうです」と、心からの笑顔でおばあさんに答えた。

その夜、春樹はおばあさんのくれた大福をそっとかじった。もちもちとした餅の食感と、優しい甘さのあんこが口の中で広がり、疲れた心と体を癒してくれるような気がした。不安が完全に消えたわけではないが、「自分はきっと頑張れる」という自信が少しずつ湧き上がってくるのを感じた。

その後、春樹はますます勉強に励み、試験当日も精一杯の力を発揮して受験を乗り越えた。結果が発表される日、彼の心には期待と不安が交錯していたが、「梅屋」での出会いを思い出しながら深呼吸し、ゆっくりと掲示板に目を向けた。

そこには、彼の受験番号が記されていた。無事に合格していたのだ。春樹は安堵と喜びで胸がいっぱいになり、家に帰る途中、どうしてもおばあさんに報告したいという思いが湧き上がり、「梅屋」に寄ることにした。

「おばあさん、合格しました！ おばあさんの大福のおかげです！」と笑顔で報告すると、おばあさんは大きく頷き、まるで自分のことのように喜んでくれた。「よく頑張ったね。合格おめでとう、本当にお疲れ様」と言いながら、お祝いとして、また特製の大福を一つ手渡してくれた。

その大福は、少しだけ豪華な包装が施されており、春樹はそれをそっと受け取った。おばあさんは続けて、「この大福は、お祝いの気持ちと、君のこれからの新しい旅立ちへのエールを込めたものなんだよ」と、目を細めて言った。

春樹はその大福を見つめながら、これから新しい高校生活が始まることへの期待と、また何かに挑戦する意欲を感じていた。そして、この合格を機に、彼もいつか誰かに喜びや励ましの気持ちを伝えたいと思い、ふと「自分で大福を作ってみたい」という夢が心の中に芽生えたのだった。

その後、春樹は家族に自分の合格を報告し、家族みんなでお祝いをした。その際、母親が手作りで用意した大福が登場し、家族みんなでそれを食べながら、春樹の努力を讃えた。彼はこのとき、「梅屋」でおばあさんからもらった大福と母親の手作り大福がどこか重なるような気がし、胸がじんわりと温かくなった。

母の作った大福も、もちもちとした食感と、ほんのり甘いあんこが絶妙で、おばあさんの作る大福とまた違った家庭の味がした。春樹は、その家族の温かさと一緒に、贈り物としての「大福」がまたひとつ特別な意味を持つものとして自分の心に刻まれた。

この合格祝いの大福をきっかけに、春樹は「贈ること」の喜びとその意味を深く感じた。そして、大福がただの和菓子ではなく、贈る人の思いを伝える特別な存在であることを確信した。自分もまた、誰かを励まし、喜ばせるために大福を贈りたいと、心から思ったのだった。

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